「深い付き合いもなかったくせに何でいきなり弁当なんだ」
「利害が一致しただけだ。俺は食事に気を使う余裕がないし、彼女の方は自分の作ったものの評価を直接得られる」
蓋を取った四角い弁当箱の中身は、焼魚や茹で卵などすぐにそれとわかるものの他、茸といんげんの和えもののような明確な名前が不明な品目もあった。いずれにしても少量ずつだが、男の片手に余る箱の中にぎゅうぎゅうに詰められている。緑のもの中にぽつぽつと散った赤や橙が際立ち、まるで鮮やかな花壇のようだ。
「…食べるのが勿体無いな」
自分の手の中を見下ろして、義勇はしみじみと言った。弁当一つに随分と感傷的だ。気持ちはわからないでもないが、待ちあぐねた俺の腹の虫が鳴く。
美味そうな食物を目の前に『待て』など成長期の体には無理な話だった。「それなら俺が先に」と脇から箸を伸ばす。初見で狙いを定めていたつやつやの茶色いタレが絡んだ鶏肉を素早く口の中に放り込んだ。「錆兎、」と慌てて取り返そうとするが、もう遅い。照り焼きは噛む度に肉汁がじゅわじゅわと溢れてくる。冷めて温度を感じないのに濃い甘味が後を引いた。思わず口元を押さえる。
「義勇、もうひと口」
「駄目だ。これ以上減っては感想を書くのに支障が出る」
弁当箱だけではなく混ぜ込まれた具が全て違う三つの握り飯も体の向こうに隠されてしまった。心の狭い奴め。しぶしぶコンビニ弁当の入った袋を開けた。
それにしても都合よく事が運び過ぎていやしないか。前世から引き継がれた義勇の憂愁が漂う様は見る者を惹きつけこそすれ、積極的に話しかけようとする人間は多くはない。顔は良いが無口で無愛想。眺めるだけならまだしも、共に過ごすのなら話しやすさや親しみやすさの方が受けの良い時代だ。喧騒が遠ざかる事を良しとして、教師なんて人を相手にする職を選んだくせに、本人も特段改めようとはしていない。
宇髄先生や煉獄先生のような闊達な性質であれば別だが、あの柔和な雰囲気の裏にそんな豪胆な一面を隠しているのだろうか。一度校内で見かけた時は普通の女性に見えたのだが。顔を思い浮かべて首をひねった。
義勇は俺の隣で食べるそばからスマートフォンに感想とやらを打ち込んでいく。画面に浮かぶ文字の多さに驚いて「引かれるんじゃないか」と声をかけるが「昨日もこれくらいだった」と譲らない。じっくり返答を吟味できるので、本人達は意図せずともコミュニケーションにおいてこの方法は最適なのかもしれない。
普段俺や炭治郎への連絡は『ああ』とか『わかった』の一言ばかりで素っ気ないくせに。お前も一人の男だな。
余程親しい者でなければ気づかない程度に緩んだ顔は、見るからに幸せそうだった。