義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

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終章二 暗黙と、暗転

出来ることならこの手で幸せにしたい。しかしそれは難しいだろうと冷静な自分がいた。闘いは苛烈を極め炎柱に続いて音柱も退いた。鬼が絶えるのが先か、俺達が絶えるのが先か。今はそういう時なのだと思う。

いよいよ長くは傍にいてやれないのではないか。そう思い至って周りを見ると、俺が残してやれるものはあまりにも少なく家と幾ばくかの蓄えのみだ。せめて確実に彼女の手に渡るようにと婚姻を結んだが、そんなものばかり残されても荷はかえって重くなっただろうと複雑にもなった。最後まで俺の都合に振り回してしまった。

選んでやれない事を責められたとしても謝る事しかできない。共に歩くどころか放り出し、ひたすらに前線に立つ事にこだわり続ける不器用な男に惚れこまれた彼女が憐れでならなかった。

***

任務に出掛けることが少なくなり、家を空ける代わりに柱や隊士の方々が日参された。竈門様がいらっしゃってからは義勇さん自らが稽古をつけるようになり、長いこと二人きりだった広い屋敷は途端に賑やかで手狭に感じられる。

生活の変化に追われるふりをして何も尋ねなかった。暗い顔で話をする時間が惜しかった。食事を作り家や衣を清める。ぽつりぽつりと話す貴方の声に耳を傾け笑う。肌に触れ存在を確かめる。ずっとこの時が続けばいいのに。

でもそれは鬼刈りを生業とすることを選んだ貴方には酷な願いだとわかっていたから口にしなかった。

ある夜、緊急招集だと竈門様と慌ただしく出かけていった。「いってらっしゃい」と見送った後に、義勇さんと私との間の伝令役を務めている鴉から文を渡される。開く前から嫌な予感がした。義勇さんはずっと家にいたのに、何故改めて文なのか。

『女性が一人で生きるのは難しいだろう。俺の師である鱗滝左近次という老人に後を頼んでおいた。遠慮なく頼るように』
『食が細くなり心配だった。体には十二分に気をつけて欲しい』

遺書のような文面に涙が溢れ一度しか読めなかったが、もう焼き付いてしまって離れない。

さようならも言わせてもらえない一方的な離別になるとは思いもしなかった。怒りが湧き上がるが突きつける相手は既に此処には居ない。刀を差して颯爽と駆けていった背中が過った。がりりと畳に爪を立てる。悲しみとない混ぜになって、いっそ全てが憎かった。

「落ち着きなさい。腹の子に障る」

いつの間にか庭に人が立っていた。恐ろしげな天狗のお面の下から聞こえる声音は重くも優しく、言い聞かせるような淡々とした口調が義勇さんに似ている。

この人が文にあった師か、と認識したのと同時に目から流れ落ちるものをそのままに顔を覆った。それではもう、本当に帰らない気なのだ。手の平は温い液体ですぐにいっぱいになった。

私の体の変化を察知していながら妊娠の可能性に思い至らないとは、いかにもあの人らしい。筆跡には一分の乱れもなかった。一体どんな心持ちでこの文を書いたのだろう。

そうして長い長い夜が始まった。

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