竈門兄妹の幼馴染

竈門炭治郎

消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。

目次

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【五】流れゆく日常 <懐かしい女の子>

「本当の本当に、お兄ちゃんと付き合っているの?」

二人になった時に禰豆子に尋ねられた。半眼になって睨めつけるような訝しげな顔を作っているが、かえって可愛らしい。

「信じられない?」
「信じられない…町の男の人達は誰が貴女を手に入れるか、噂をしない日はないのに」

誰の話をしているのだろうと、きょとんとしてしまった。禰豆子は驚いたように「知らないの?」と重ねて尋ねてくる。

「町一番の呉服屋の一人娘なんだもの。跡目を名乗り出る人は後を絶たないでしょう」
「買い被りすぎよ」

あまりに見当違いな話なので、笑って首を振った。一代で店を大きくした父は外から婿をとるのを嫌がって親戚中を訪ね歩き、筋の良い若者を養子に迎える話を進めている。唯一の理解者であった母が亡き今、私の味方はあの家には居ない。

高い笑い声が山間に木霊した。顔を向けると炭治郎と禰豆子の弟妹達が、草の上で仔犬のように転がって遊んでいる。それを見た禰豆子が「ふざけ過ぎては駄目よ」と声を張り上げた。微笑ましい光景だった。なんて自由で開放的で、健全なのだろう。この伸びやかさも含めて私は彼に惹かれたのだ。

「…本当に、本当?」
「本当よ。炭治郎の事が好きなの。此処に来るのも好き。炭焼きや炭売りの仕事も好きよ。楽しいもの」

そう答えると禰豆子は、かあっと顔を赤くした。俯いてもじもじとしている。

「その、私…ずっとお姉ちゃんが欲しかったの」

*

懐かしい夢だ。炭治郎が泊まりにくると、この夢を見る事が多い気がする。彼の顔を見ると未だに消息を教えてもらえない禰豆子の事を思い出すからだろうか。

ふと誰かが私の手を握るのがわかる。炭治郎にしては小さい気がした。それが誰なのか確かめたかったが瞼が重い。赤ん坊の頃から寝つきが良く一度眠ったら地震がきても起きない、と母によく笑われていた。やっと薄目を開けると暗がりで黒髪の女の子が一緒に寝転がって私を見つめていた。何となく見覚えがあるような…気がする。それが誰なのか記憶を探るうちに再び泥のような眠気が襲ってきた。

***

昨日また小さな女の子を見た、と言われて心臓が跳ねた。焼き魚に伸ばした箸をぴたりと止める。

「また?」
「うん…もう何度目かな」

禰豆子はあれからも時々眠る彼女の布団に潜り込んでいた。一度眠りにつくと中々起きない性質なので、ばれないと思っていたのだけれども。

「最初は幽霊かなと思ったんだけど怖くはなくて。何か寧ろ懐かしい感じがして」
「ソウナンダ」
「炭治郎は見てない…って何で嘘をつく時の顔になっているの?」

俺の力の入った顔を見て吹き出し、笑いを堪えるのに必死だ。この顔は彼女の変なツボを突くそうだ。体を震わせながら一頻り笑った後、手に持った小皿を置くと「怖くないから大丈夫だってば」と一息ついた。俺が幽霊だと思ったのを怖がらせないよう嘘をついた、ということになったらしい。これ幸いと否定はせずに、箸にとった飯を口の中に放り込む。

やっぱり止めさせるべきかな。二人が並んで寝ているのが可愛らしいし禰豆子も嬉しそうだからと、体を小さくして静かにしている事を条件に許していたのが良くなかったか。

「…あのね、変な事を言ってもいい?」

赤い顔で言い辛そうにしている。緊張が伝わってきて、思わず口の中のものをごくりと音をたてて飲み込んだ。

「炭治郎との赤ちゃんが未来から挨拶に来たのかな、って思ったの」

箸と茶碗が手の中から滑り落ちた。盛大な音を立てて床にぶつかり中身が散らばる。「大丈夫!?」と驚いて伸びてきた手を掴んだ。ぱちりと見開かれた双眸を覗き込んで顔を近づける。

「…今から作る?」
「え!?ちょっともう、朝から何言ってるの」

至極本気で言ったのだけれど強い力で押し退けられた。慌ただしく溢れたものと食器を片付けながら「私はこれから仕事だし、炭治郎もすぐに出発するんでしょ」と言われ、それもそうかとしょげた気持ちを立て直す。急かす彼女の声音に棘はなかったのでかえって気を良くした。

名残惜しいな。出来ることならもう少しだけ、ほんの少しだけ一緒にいる時間が欲しい。自分の着替えを終えて、流しで忙しなく洗い物をする小さな背中を見つめる。すっかり手慣れていて、その脚に纏わりつく小さな女の子がいても違和感がないように思えた。

「…炭治郎となら、温かくて優しい家庭を作れると思ってる」

水道の栓を閉めながら彼女がふいに言った。同じ事に想いを巡らせていたのかと、どきりと心臓が跳ねる。赤い顔で振り返りながら優しく微笑んだ。白い朝日がその頬を柔らかく照らす。

言葉にならないものが込み上げてきて衝動的に抱き締めたくなったが、彼女が「遅れそう」と走り出し、俺の横を辻風のように通り過ぎていった。

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