義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

SS

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連れ合い

「あの、やっぱりおかしいですよね、こんな若い娘さんみたいな格好」

胡蝶に引き摺られて来たので何事かと思ったが、施された化粧と普段より華美な着物で照れていただけだったらしい。よく似合っている、と言うとほんのりと朱に染まって顔をそらした。その動きに合わせて目の前できらりと光った蝶に手を伸ばす。

「だが、これは余計だ」

ぱち、と髪飾りを外すと傍らに居た胡蝶の眉がぴくりと動くのがわかった。

「あら、これでは頭が寂しいですよ」
「この屋敷の者になったようで気に入らない。町でもっと合うものを買えば良いだろう」

意外そうに二人が見つめてくるので、何だその反応は、と一気に居心地が悪くなった。出掛けるために着飾ったのではないのか。問いかける前に胡蝶が彼女の背中を押す。

「冨岡さんの気が変わらないうちに行ってきてくださいな」

開店したばかりだという甘味屋の半券を渡された。

***

右手と右足が同時に出ていたので不安になったが、無事に髪飾りを扱う店までたどり着いたので密かに胸を撫で下ろした。

店員に見繕ってもらうと、流行だと言って出てきた品は装飾華美で派手過ぎて閉口する。彼女も「もっと大人しいものはありませんか」と困惑していたので、任せてばかりでは埒が明かないかと自分で店内を見回した。

目についたのは店の隅に置かれた白い花だった。近づいてみると、椿の花を模した手のひらよりも小さなものだったが精巧に出来ていて見劣りはしない。手にとってあてがうと柔らかい雰囲気にぴったりだった。控えめなようで不思議と今の格好にも調和する。

「ありがとうございます。一生の宝物にします」

大仰な、と顔を見たが、瞳が潤んでいたので驚いた。思えば二人で出掛けた事も数えられる位だし、何かを贈った覚えはもっと少ない。

嬉しそうに甘味をつつく彼女はそこらに居る普通の女性と変わらないように見えた。俺も着替えて来ればよかったか、と自分の格好を見下ろす。任務がある訳でもないのに隊服にいつもの羽織な上、帯刀しているので周りから浮いていた。彼女が俺に笑顔を向ける度に周りから物珍しそうな視線が注がれる。恋仲にはとても見えないだろう。良くて令嬢と用心棒か。

「そろそろ帰りましょうか」

店員が皿を下げるのを見計らって隣から立ち上がる。後を追って声をかけた。

「もういいのか」
「ええ、もう十分です。お洒落をして義勇さんと出掛けられるなんて夢のような時間でした。胡蝶様にもお礼を言わないと」

お土産を買って行きましょう、と笑うその手を取る。不思議そうに見上げられ「まだ何処か行きたいところがありますか」と尋ねられた。そうではない、と首を振る。

「これなら恋仲に見える」

連れ立って歩こうとしたが、赤い顔で固まってしまい手を握ったまま立ちつくす。往来の真ん中なので歩みを止められた者の舌打ちが聞こえた。

「…抱き上げて運んでも俺は一向に」
「自分の足で歩きます!」

小さな温もりに柔らかく握り返された。いつもは楽しそうに話しながら隣を歩くのに、少し後ろを粛々とついてくる。お互いが黙ったままなので道の向こう側の掛け声が、やけに大きく聞こえた。「胡蝶様は、あのお店の羊羹がお気に入りなんです」と手を引かれる。

顔見知りなのか親しげに会話をするのを見守るうちに、店員が興味深そうに俺達を見比べた。

「ご結婚されていたんですね」

ふいに言われて、買い求めたばかりの胡蝶への土産を取り落としそうになるのを慌てて受け取る。「違いましたか」と首を傾げられた。

「…違わない」
「義勇さんっ!」

すがられるが店の壁に貼られた「夫婦限定」の文字が躍る紙を顎で指す。彼女が好きそうな凝った形の練り切りが、宣伝文句の「夫婦」を連想させるためであろう、対になって描かれていた。

「………主人です」

彼女の返答に「やっぱり」と店員が嬉しそうに営業を始める。迷いなく限定の練り切りを追加で購入した。

「もうあのお店に行けません…」

二つに増えた包みを下げ店員に怪しまれないようにと、すぐにまた手を繋ぐ。良心の呵責が、と頭を抱えるので、顔を近づけ周りに聞こえないように囁いた。

「本当にすればいい」

いつかの妻問いは先延ばしにされたままだった。逃げ出さないように強く手を握り直す。以前と変わらず形にこだわるつもりはないが、お互いこうして人前で気を揉むことは無くなるはずだ。

帰ったら返事が欲しい、と言うと「猶予は殆どないですね」と少し呆れたように首を振る。

「…断る理由がありません」

迷いのない澄んだ瞳が見返してくる。今度は俺が固まる番だった。

リクエスト:「お出掛け」

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