竈門兄妹の幼馴染

竈門炭治郎

消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。

目次

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【一】繋がる明日

積もった雪を踏みしめて歩いていくと、ふいに開けた場所に出る。かつては小さな炭焼き小屋があり沢山の子どもの笑い声が響いていた。今はただただしんとしていて、その面影はない。

人が住まぬのであれば危ないからと炭焼き小屋は大人達が早々に潰してしまった。「炭治郎達が帰ってくるかもしれないのに」と私は責めたが、騒ぎの中でご老公が「帰ってくる訳が無かろう」とぽつりと言ったのが今も胸の底に鉛のように沈んでいる。

その年の春に雪の下から出てきた五つの塚の側に、どんなに雪が積もっても見失わないようにと私は大きな石の目印を立てた。以来折を見て手を合わせに来ている。私の知っている炭焼き小屋の家族になるには、あと二つ足りない。

「二人とも可愛らしい顔をして、年頃だから人攫いにあったのではないか」

大人達が影で話をしているのを聞いてしまった。人攫い。恐ろしい響きだが死んでしまっているよりずっといい。もう絶対に、二度と会えないより、ずっといい。合わせた手に力を込める。最早自分の為の祈りになっていた。

「墓標を立ててくれたのは、やっぱり君か」

ふいに話しかけられて腰を抜かし雪の上に尻もちをついた。お尻がじんわりと冷たくなる。

「た、炭治郎…?」

傍に立つ影を見上げると記憶の中と寸分違わぬ明るい笑顔で「久しぶりだな」と言い、助け起こそうと手を差し出された。

夢か幻かと思い、すがりつく。確かに実体があり勢いでよろけた私をびくともせずに支えた。手を伸ばし頬に触れ赫色の瞳を覗き込む。大好きな焚き火の色が柔らかく私を見返してきた。

「本当に、炭治郎だ…」

ぼろぼろと涙がこぼれた。温かな手に拭われる。

「心配かけて、ごめん」
「ううん…こうして、生きてまた会えたもの、」

泣きじゃくっていると、ゆったりと自然に手がまわされ抱きしめられる形になった。髪を撫でられ、その胸に頭を預ける。どきん、と自分の心臓が鳴った。

そうなって初めて記憶の中よりも炭治郎の上背が伸びていることに気づいた。服の下の身体は分厚く固く、まるで岩のようだ。見覚えのある羽織の下には見たことの無い形の変わった黒い洋服を着ている。手のひらに感じる生地は質素な見た目に反して上等そうに思えた。

「炭治郎…?」
「迎えに来たんだ」

やっと準備が整ったと、にっこりと笑う。何故だか背筋がひやりとし今すぐこの場から逃げ出したくなった。しかし回された腕は思いの外、力が込められていて全く動けない。目の前に居るのは本当に私の知っている炭治郎なのだろうか。狐か狸に化かされているのでは、と自分の頬を張りたくなった。

「迎えって…そういえば禰豆子は?一緒じゃないの」

ふいに思い当たり一緒に消息不明になっていた妹の名前を出すと呼応するかのように、かたん!と炭治郎の背中から音がした。ねえ、その木の箱の中身は何。そんな四角い箱では炭は運べないでしょう。一体何が入っているの。

「ごめん!詳しくは言えないんだ!それでも俺を信じてついてきて欲しい」

目の前で懇願するように手を合わされて、そういえば昔同じような事があったと記憶が蘇る。

『頼む!禰豆子の前で恋仲のふりをして欲しい』

お節介な妹にせっつかれて根負けした、とあの時も必死な顔をして私に手を合わせていた。

『…ふりではなく本当に恋仲になるのでは駄目なの?』

私の返答に目を丸くし赤い顔で慌てたのが懐かしい。

蜜月は極めて短く、触れ合うのは手を繋ぐ位の拙い間柄のうちに、忽然と私の目の前から消えてしまった。それでも、あの心が繋がったような不思議な感覚を忘れられずに誰を紹介されても首を縦に振らない私を、取り憑かれているのではないかと家族は今や遠巻きにしている。奉公に出そうか、と厄介払いをするかのような話をしているのを聞いてしまい居ても立ってもいられず此処に来た。

あのまま平穏な日々が続けば通うのではなく住む事になっていたかもしれない、この場所に。

「…わかった。一緒に行く」
「本当か!?」

頷くと暗雲の中に一筋の日が差したように、ぱっと笑った。

「ご家族には鴉を飛ばして文を届けるから早々に出発しよう」
「からす?…え?もう行くの?」
「急がないと暗くなってしまう」

暗くなるから何だと言うのだろう。何から聞いていいのかわからず、ひたすらに鸚鵡返しをしてしまう。炭治郎は一つも答えることなく笑顔のまま「大丈夫だから、苦労させないから」と呪文のように繰り返した。

ふいに、ひょいと横抱きに持ち上げられる。思わず首にしがみつくと炭治郎は風のように駆け出した。あっという間に見慣れた景色が流れて行く。速さと揺れが酷くて郷愁に浸る余裕もなかった。「ひゃあああ」と間の抜けた私の悲鳴が山の中に木霊した。

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