胡蝶の手伝いの迎えに来たが何やら隊士と話し込んでいるという。屋敷の中を探すと、廊下の一角で何やら立ち話をしているのを見つけた。
「義勇さん」
彼女は俺を見留めて明らかにほっとした顔をした。男は空気を察したのか、一瞬で顔色を変えた。早口で口上を述べると、そそくさと立ち去ろうとする。
「…顔を覚えたぞ」
すれ違い様に言うと男の喉から細い悲鳴が漏れるのが聞こえた。転げるように走って行くのを尻目に彼女に向き合う。
「水柱様が連れてきた女だと珍しいようで。皆さん代わる代わる挨拶にいらっしゃるんです」
礼儀正しい方が多いですね、と笑うが無防備が過ぎる。何故俺から取り上げられた時間を他の男にくれてやらねばならないのか。ましてや二人きりにするなんて以ての外だ。胡蝶に抗議をしようか思案していると、するりと腕に小さな手が絡まった。
「此処に来ると皆さんから義勇さんのお話が聞けて嬉しいです」
「…俺と居るよりもか」
子どものような駄々が口をついて出る。困らせるだけだとわかっていたが、あまりにも此処で過ごすのを楽しそうに話すものだから、つい。彼女は意味する事を察し顔を赤くしたり青くしたりした。
「すみません、決してそのようなつもりは」
腕を握る手に力を込め必死に謝る。泣きそうに揺れる瞳に俺だけが映されているのを見て一先ず満足した。
頬に手をやり顔を近づけると一瞬躊躇するように体を揺らしたが、静かに目を閉じる。それを待って唇を重ねた。触れるだけでは足らず早々に舌を割り入れて口内を貪る。いつも外では恥ずかしがって突っぱねるのに今日はそれもない。愛情を示そうとしているのか、すがりついて応えようとしてくる。
健気な様子に堪らず抱き込むと「まだ怒ってらっしゃいますか」と、か細い声が聞こえた。波立った心は、とっくに静まっている。少し遊びが過ぎたか。彼女の中の不安を打ち消そうと、返答を直接耳に吹き込むようにして囁いた。
「……、」
「ぎ、義勇さ…!外で、そんなこと」
「惚れた相手に愛を囁くのに照れる必要が何処にある」
当惑し胸を押すので回した腕に力を込める。身じろぎするが暫く解いてやる気はなかった。溜息をつく気配を境に、やっと大人しくなったと思ったが、ふいに小さく体を揺らす。敵に気づいた小動物のように動きが慌ただしくなった。
「いい加減、人の家で盛らないでくださいませんか」
この屋敷で俺の後ろを取れるのは胡蝶ぐらいだろう。振り返ると一見穏やかな笑みをたたえているが、目の奥は明らかに笑っておらず剣呑として立っていた。
「柱とあろう者が下の隊士に嫉妬とは。愛情も行き過ぎると見苦しいものですね」
どうやら先程の者はあのまま胡蝶の元に駆け込んだらしい。本当に顔を覚えておくべきだったか、と後悔した。胡蝶は微かな怒気をはらんだまま続ける。
「あんな歯の浮くような台詞を吐けるほど夢中なら、さっさと身を固めるなり何なりしてください。周りはいい迷惑です」
「…いつからそこに」
「割とずっと居ましたよ。そんなことよりも離して差し上げた方が良いのでは」
指されて初めて気がついたが腕の中の温もりは今や茹だったような熱をもっていた。両手で顔を隠し僅かな隙間から覗いた頬と耳はこれ以上ない位赤くなっている。
「嬉しいやら恥ずかしいやらで…もう、何がなんだか」
「しっかりした方だと思っていたのですが、こんな一面もあるのですね」
胡蝶は俄然興味が湧いたのか面白がるように覗き込んでくる。嫌な予感がして隠すように背を向けたが構わない様子で声をかけてきた。
「よろしければもう一晩泊まっていきませんか。昔の冨岡さんの話などをして差し上げます」
「本当ですか!?」
「…俺の話は俺から聞けばいいだろう」
「貴方では言葉が少な過ぎて物足りないのでしょう」
何を今更、と一蹴され、ぐうの音も出ない。そんな俺を余所に腕の中から「義勇さん」と期待に満ちた眼差しが向けられた。普段慎ましやかなだけに、いざ強請られると弱い。
「………明日の午前に迎えに来る」
「ありがとうございます!」
「冷静沈着と評される水柱が形無しですね」
胡蝶の笑みが、やけに不敵に思えた。
診断メーカー:3RTされたら「惚れた相手に愛を囁くのに、照れる必要が何処にある?」の台詞を使って冨岡義勇を描(書)きましょう。