はじめての彼氏と彼女
宮治
巨乳と標準語がコンプレックスの彼女と、クラスが替わってからその子のことが好きだと気づいた治の青春話。
※関西弁はエセです
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目次
本話
2023.11.10
馴れ初め
2023.12.22
【R18】巨乳と標準語がコンプレックスの彼女と、クラスが替わってからその子のことが好きだと気づいた治。晴れて恋人になるも侑に邪魔をされて以来、初めての場所と機会を求めて彷徨う青春の話。最後にはヤり遂げます。【2年生:冬】
ちゅく、と音を立てて治の舌が口の中に入ってきた。尖らせて固くなった先が私のをつついて「もっとこっちに近づいて来い」と、しきりに誘っている。「俺と気持ちええことをしよう」と、煽ってくる。
「んむ、ぅ…待って、おさむ…っ!ふぁ」
治がぐいぐいと舌の腹を押すので上手く喋れない。そしてされるがままに絡め取られて、ちゅうちゅうと甘く吸われた。
静止は全く聞き入れてもらえず、顎と腕を掴まれて強引にキスをされている。なのに夢中で私を求める治がかわいく思えて、ときめきを覚えた。
「…俺、待たへんよ。やっとお前とこういうやらしいこと、できるんやもん」
「あ…」
制服のブラウスの上から治の手が覆うようにして私の胸を持ち上げた。バレーボールを片手で掴めるくらい大きな手のひらだ。
(胸が大きすぎるのがコンプレックスだけど、治の手の中なら小さく見えるかも…ってこんな時に何考えているんだろう、私)
体に触れられているのを見下ろして、意外と冷静に思考を巡らせていることに気がついた。そんな自分がはしたなく思えて、混乱と焦りでじわりと涙が滲む。
「泣くなや。本当に止まらんくなるで」
「だって…恥ずかしくて、もう心臓こわれそう」
「やからそういうの、この状況ではあかんって。はー…辛抱たまらんわあ」
顔を隠した手を退けられ、ぎらついた瞳を見返した時だった。どかどかと家全体を揺るがすような、盛大な足音が部屋の外の廊下に響いた。そしてそれは如実に近づいてくる。
治は「うげ」と言い表情を曇らせると、サッと姿勢を正して宿題を広げた座卓に向き直った。同時に腕を引かれ、背中側に傾いて床にはみ出していた私の体も、すとんと元の座布団の上に戻される。
「ゴラァー!サム!ここは俺の部屋でもあるんやで!彼女連れ込んでスケベなことしよったら、本気でシバくぞ!」
向かいに見える部屋のドアが勢いよく開いて、怒りの形相の侑くんが駆け込んできた。学校の制服を着て通学鞄を肩から下げていて、帰宅したばかりのようだ。
侑くんは眉をひそめて腕を組み、怪しむように部屋の中をきょろきょろし始める。そんな兄弟を見上げた治は露骨に嫌そうな顔をした。
「アホか、ツム。こんな男臭い部屋でムードもへったくれもないやろ。高校生らしく、いたって健全にお勉強中やで」
「嘘つけ。キスくらいはするつもりやったろ。いや、もうしたやろ。ったく、日直で少し遅なっただけやのに、家に親おらんし油断も隙もないわ。あ、アンタは何も気にする必要あらへんよ。サムがボケカスなんが悪いんや。ゆっくりしていってなあ」
「うん。ありがとう」
「ええか、サム。変な気ぃ起こすなよ。時々リビングから様子を見に来るからな」
私に晴れやかに笑いかけた後ですぐに真顔に戻り、治に厳しく言いつけた侑くんは、二段ベッドの下段に広げてあった部屋着らしき服を無造作に引っ掴んだ。そして入ってきた時と同じように荒々しく大股で部屋を出て行く。
扉の向こうの気配が遠ざかるのを待ってから、勉強をするふりを続ける治を見やった。真っ白なノートの一番上に『ツムのアホ』と走り書きがされていた。
「さすがは双子。お見通しだったね」
「双子だからちゃうよ。俺らの歳の男なんてみんな考えてること同じやって」
治はため息をついてシャープペンシルを机の上に放ると、大きく伸びをしてごろりと床に寝そべった。
逆立てた銀色の髪が重力に従って柔らかく顔の周りに垂れ、さらにおっとりとした印象に見せていた。なのに先ほどの鋭さを目元に残したままだ。侑くんとは明らかに異質な治の強い自我が垣間見えて、どきんと心臓が高鳴るのを感じた。
*
三月下旬にかかる時節だが、曇り空の今日は屋外の空気が特に冷たかった。二人で首を竦めて体育館に隣接された部室棟に歩いて行く。
バレー部の部室の鍵を開けた治は「さぶ」と言うと、壁に設置されたエアコンのコントローラーの蓋を開けて、設定温度の数字を上げた。室内が暖まるまでは部屋の真ん中のベンチに並んで身を寄せ合い、治の熱心で小気味いい食べっぷりを隣で眺めながら、自分のお弁当を食べるのが日課になっていた。
「はー、昨日は惜しかったなあ。せっかく二人きりでええ感じやったのに。ツムのせいで台無しや。しかしホテル行くにしても、金ないしな」
持参した昼食を食べ終えた治が天井を振り仰いで、おもむろに口を開いた。
「治は部活でバイトする暇ないもんね。三年生になったら地区予選に向けての練習で、もっと忙しくなるだろうし」
「お前だって四月から受験勉強が本格的になる言うてたやないか」
それから二人で顔を見合わせて何となく黙った。ただでさえクラスが違って会う機会が少ないのに、四月になったらさらに減るかもしれない。眠たそうな目をした治が、私と同じことを考えているのがわかった。
「…なあ、昨日の続きしよ。キスとソフトタッチだけじゃあ俺、いつか暴発してしまうわ」
「今ここで?えー…誰か来たらどうするの」
「この時間は来ぃひんよ。何ヶ月もここで一緒に昼飯を食うてるけど、誰も来たことないやろ」
治は手際よく自分と私の分のお弁当箱を片付けると、それらを後ろに退けてずいと距離を詰めてきた。吐息がミントタブレットで爽やかに香る。開いた瞳孔の中に試合で勝利を渇望するのと同じ光を見つけて、胸の鼓動が早鐘を打ち始めた。
目を逸らしてみたが、治が真剣なのを目の当たりにした今、いよいよ逃れる術はないように思えた。
「…あのね、治に触られるのが嫌なわけじゃなくて…私あんまり、自分の胸が」
「知っとる。大っきいから嫌な思いをしてきたんやろ。その分、俺が愛したるって決めたんや」
治は両手で私の頬を挟むと、額と額を合わせて瞳を覗き込んできた。言葉の通り、その両眼にはこちらのためらいを一蹴するような強い決意が漲っている。
「ん…いいよ。治なら、いいよ」
真っ直ぐな志と愛情に心を打たれた。また胸の中が、きゅうと狭くなってときめく。
承諾の証に、頬に添えられた手を握り返し、伸び上がってキスをする。すぐに離れるも、わずかに生じた隙間を惜しむように追いかけてきた治の唇が、濡れた音を立てて吸いついてきた。そのまま何度も角度を変えて重ねられる。
昨日のようなムードになるのを察知して、慌てて肩を叩いた。まだ話は終わっていないのだ。三角眉をひそめた治は渋々といった様子で正面から私を見下ろした。
「ただし予鈴までね」
「全っ然、時間ないやんか!」
「私と付き合ったせいでバレーが下手になったって言われたら嫌でしょ。治にとってのバレーが私の場合は勉強と授業なの。…それとも、やっぱり今日はやめとく?」
「いや、これ以上チャンス逃したないし…ありがたくいただきます」
治は顎に手をやり少し考える素振りをすると、ロッカーの上の壁掛け時計を確認して気が急いたのか、いきなりブレザーの下に着込んだセーターの裾にその手を伸ばした。するすると捲り上げられブラウスのボタンを外されると、エアコンが掃き出す乾いた温風が露わになった肌を撫ぜ、ぶるりと全身が震える。
冷静な治が珍しく興奮した様子で「でか」と小さく呟いて、唾を飲み込むのがわかった。
「…ブラ、外してもええ?」
「だ、だからそういうの恥ずかしいんだってば…いちいち聞かないで」
「なんや、不安そうな顔しとるから確認したったんや。そんならもう俺の好きにさしてもらうで」
治は淡々と固い口調で言った。でも私の目を見てすぐに表情を緩めると、優しいキスをしてくれる。
耳、赤い。治も私と同じくらいどきどきしているのがわかった。
(『治になら何をされてもいいよ』の『いいよ』のつもりだったのに。伝えるのって難しい…)
首に腕をまわして縋りつきながら、そんなことを考えた。
その間にブラウスの中で脇腹の横を通り、背中の真ん中でごそごそと取っ掛かりを探っていた指が、下着の拘束を外す。浮いたカップの下に、色づいた先端を平時よりもはっきりと濃く尖らせたふくらみが覗いて、かあと顔が熱くなった。
家族以外の異性に肌を晒すのは初めてなのに、淫乱だと幻滅されないだろうか。恐る恐る顔を見上げるが、治は大好物を前にした時のように、目を見開いて瞳をきらきらと輝かせていた。
「いやあー…絶景や。それにどこもかしこも、あったこうて、やらかいし、ええ匂いするし…」
「!っあ、ン」
不意打ちで耳を舐められる。上擦った変な声が出て、慌てて口を押さえた。
「声も甘なってて、かわええ。…俺、もう画像や動画じゃあ満足できひん。ツムが羨ましがって邪魔したくなるの、わかるわ」
途中から独り言のように言った治は、じぃっと私の胸を注視して、浮かされたように両手で捏ね始めた。
(気持ちいい、かも。昨日も思ったけど治の手は安心する…)
でも服の上から触られた時とは自分の反応がまるで違う。ほんのり汗ばんで湿った手のひらに包まれて温かくてふわふわするのと、固い粒と化した先端を指先で擦られて電流のように一気に全身を駆け巡るびりびりとが交互にきて、どんどん頭の中が熱くなっていく。
「…お前に『好きや』って、言うてよかった。付き合えるよう頑張ってよかった。何がうれしいのかとか気持ちええのかとか全部知れんの、彼氏の特権やもんな」
霞がかった視界の中で、治がしみじみと言いながら笑った。確信に満ちたそれは力強くありながらも無邪気にはしゃぐような響きが含まれていて、つられて私も笑んでしまった。
***
人を好きになるのに大層な理由なんて必要ないと、俺は思う。
高校に入学して同じクラスになったばかりの頃に(おっぱい大きそうな子やな)って、ブレザーの下のこんもりとしたふくらみを透かし見ようとしたのは認める。でもそれをしたのは、その一度きりだ。
生まれた時からやかましい片割れであるツムが常に隣にいるせいか、俺は昔から他人に積極的に興味を抱かなかった。俺の幸せはバレーに打ち込みながら、のんびりと飯のことを考える時間があることだ。それを他人に阻害されるくらいなら、おっぱいが大きいくらいで深い仲になろうなんて、死んでも思わん。
でも、挨拶の声が明るくてよく通るとか、いつも楽しそうに笑っているとか、弁当を食う時に箸の持ち方が綺麗とか、教科書を音読すると全国放送のアナウンサーみたいでかっこええとか。そういう小さな『いいな』が積み重なることで快適に一年を過ごせていたんやなって気がついたのは、学年が二年に上がってクラスが別々になってからだった。
*
ごみ捨てから教室に戻る途中の階段の踊り場で、一人でモップをかけるツムを見つけた。制服のブレザーを脱いでシャツの袖を捲り、短い距離を忙しなく往復している。真面目に取り組んでいるのはこの後に部活を控えているからだろう。
その姿を見上げながらその場に立ち止まって考える。ツムには帰宅してから報告するつもりだったが、自室で二人の時に改めて話題にすることを思うと急に胸の辺りがこそばゆい気がしてきた。
誰かに聞かれて困る内容ではないし、今話してしまおうとズボンのポケットに手を突っ込んで階段に足をかける。
「ツム。俺、彼女できた」
換気の為に開け放した窓から吹き込んでくる風が冷たく、外では色とりどりに染まった樹木が葉を落とし始めている。そろそろヒーターが恋しい季節だ。灰色の寒々しい空を眺めて身を縮めていると、ツムは仰天した様子で初めて見るもののように俺の顔を見た。
「は、あ?だだだ誰や、相手は。俺の知ってる子か」
「ん」
傍の窓を指すと一瞬で要領を得たツムはモップを床に放り出し、腰高窓に飛びつく勢いで外を覗いた。下にある中庭では、今日の昼休みに彼女になったばかりのあいつが、こちらに背中を向けて通路の上に散らばった枯れ葉を掃いている。
「元クラスメイトの隠れ巨乳ちゃんやないか」
「何で巨乳やってツムが知ってんねん。本人は気にして、あえて隠しとんのに」
「いや、制服で隠せても体操着では…って、今はそないなことはどーでもええ。もっと早う言えや。好きになった時点で言え」
「兄弟でそんな話せんやろ、普通」
「するやろ、普通!」
涙目で言い切ったツムは長く大きなため息をついた。冗談混じりの話の流れを断ち切る気配を感じ、そのまま舵取りをツムに任せるつもりで黙って待つ。
窓際で向かい合った俺達の前髪を、山から吹き下ろした北風が静かに揺らした。通りがかった生徒が怪訝そうにこちらを見やるが、結局は何も言わずにいそいそと通り過ぎて行く。
別に二人の間にあるものは深刻でも何でもない。ツムはただ秘密にされていたことが悔しくて拗ねているだけだ。案の定、ギッと俺を見返す視線に力を込めると、唐突に口を開いた。
「サムお前、あの子のこと好きやったんか。明るくてええ子やけど、標準語なのをからかうけったいなヤツがおるせいか、どっか壁があって難攻不落やって評判やのに」
「せや。だから口説くのに時間かかったし、今はクラスちゃうから話すきっかけを探すのに苦労したんや。教科書借りに行ったり、昼飯誘ったり。図書室の棚の影で待ち伏せまでしたわ」
「待ち伏せって…サムは昔っから好きなもんにはマメよな」
「でもバレーと飯以外でこんなに夢中になれるもんがあるなんて、自分のことやのに未だにびっくりしとる」
窓の外に目をやると同じ竹箒を持った友達に話しかけられ、振り返って返事をしながら人懐こく笑うのが映る。この季節は寒くて誰もやりたがらない外掃除を「空気が澄んでいて気持ちがいいから」という理由で、進んでやっているのを知っていた。これもきっかけを探して必死に得た情報の一つだった。
「…ツム、俺なあ。多分あいつが貧乳でも同郷でも、好きになるねん。それに自分の気持ちに気づくのが遅かったから、あいつに胸とか標準語とかコンプレックスがあるおかげで誰とも付き合わずに済んで、間に合うてよかったって思うねん」
「あんな立派なおっぱいがオプション扱いかい。…それ、照れ臭くてもいつかあの子に言うたれよ」
「もう告った時に言うた。なりふり構ってる場合ちゃうねん」
「マジか。漢やなあ、サム」
茶化すような言い方をしながらもツムは一切笑っていなかった。何を期待していたわけでもないが、やたら真剣な表情で俺の話を聞いているのを見て、何となく自分の気持ちが座るのを感じた。
「まあ、俺は試合に勝てれば何でもいいわ。色惚けして気ぃ散らすなや。腑抜けは容赦なくポジション下ろすさかいな」
「アホ。あいつを負けの言い訳にするのは俺が許さん。…ただなあツム、その試合云々のやつ、思てても今は言わん方がかっこよかったで。むしろ非情な人間性が強調されてヤバいわ」
「あァ!?」
*
付き合って三ヶ月、昼休みの部室でやらしいことを始めて一週間。行為は日に日に大胆さを増していた。
(ツ厶に言うた『貧乳でも』は本心やけど、やっぱりこのおっぱいは魅力的やわ…)
二人で部室のベンチに膝立ちになり、後ろから裸にしたふくらみを両手で持ち上げると、ぴくんと小さな肩が震えた。それに呼応して手の中で乳房が上下にゆさりと重たげに揺れる。
おっぱいはふわふわでもちもちしていて、触感が高級食パンの白いところに似ている。さらに揉むとしっとりと温かいのが俺の手に馴染んできて、つきたての餅のような張りも出る。
そうやってじっくり触っていると腹が減ってくる。さっき昼飯を食うたばかりなのに。
「手、冷たない?」
「うん…平気…」
もぞもぞと内股を擦り合わせるのに気がついて制服のスカートの中に手を忍ばせた。柔い太腿を撫で上げて到達した脚の隙間に指先を差し込むと、既に湿っていて深い水音がする。
「濡れるの早なってる。まだ胸しか触ってないのに、もうぐちゃぐちゃや」
「あ、う…言わないで、え」
俺の指を根本まで易々と飲み込んだぬかるみは熱く蕩けていて、これまでの施しが快感であったことを教えてくれる。ここに挿入ったら俺も気持ちよくなれるんやろなあと、ぼんやりとした頭で考えた。
(でも初めてはやっぱりこんな無骨な場所やなくて、ちゃんとベッドのある所で抱いてやりたいわ…クソ、ツムの野郎。邪魔しくさりおって)
見回した部室は引退した北さんの習慣が引き継がれて清潔で整然としているが、どこもかしこも冷たく無機質だ。それにこの一週間で前戯のコツは何となく掴めた気がするものの、体を繋げる段階に至るには昼休みは短すぎる。
ほんまにどうにかならんかなと、もやもやと考えを巡らせるうちにスマートフォンのタイマーアプリが予鈴の五分前であることを知らせた。そして今日も発散しきれない熱を抱えて、いそいそと学業に戻る準備をする。指を引き抜く瞬間に名残惜しそうに絡みついてきた生々しい粘膜の感触が皮膚に焼きついていた。
「あのね、治…」
「どうした?体きついんか」
「ううん。それは大丈夫」
部室を出てすぐの階段を上りきった時に後ろから声をかけられた。三段くらい下で俯いて立ちんぼうになっているので、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「鐘、鳴っとるで。急がなくてええんか」
「う、うん…」
頭の上で予鈴が響くが、なお口籠る様子だ。首を傾げて先を促した。
「…私、高校に入るまでは関東に住んでいたでしょう。だから親の母校やお祖母ちゃんちも、あっちにあってね」
「?そうなんや」
「今週の金曜日から土曜日にかけて、同窓会で向こうに戻りがてらお祖母ちゃんのところにも寄るから、両親共に不在なの。それで…その、もし治の都合がよければ私の家に…」
「お邪魔させてもらいます」
「そ、即答?スケジュールの確認はしなくてもいいの?」
「んなもん埋まっとっても空けるわ」
「そっか…勇気を出して言ってよかった。ふふ、金曜日が待ち遠しいな。じゃあ帰ったら電話で詳細を詰めようか」
はにかみながら顔を赤らめ階段を一気に駆け上がってくると、俺を追い抜きしなに「また夜にね」と耳元で囁かれた。
密やかな吐息混じりの声は艶を帯びて首筋をいたずらっぽくくすぐり、思わず手でシャツの襟を押さえる。踊り場を折り返す直前に見せた表情はからかいを浮かべて光っていた。
(何なん、あれ。エロいしかわええし巨乳やし。あーもう。俺の彼女、ほんまに世界一やわ…)
あいつが先に行ってしまっても、しばらく立ち上がる気になれず、その場に蹲って本鈴を聞いた。たまたま通りがかった教師がぎょっとして話しかけてくるまで、今起きたことが映画みたいにずっと目の前を躍っていた。
***
「全部一つずつや」
「治のところは侑くんのと何でも二つずつだもんね。この間お邪魔した時に兄弟がいるって賑やかで楽しそうだなって思った」
「全然。家ん中は狭苦しいし、ケンカしても顔つき合わせなあかんし、ほんま嫌んなるわ」
部活を終えた治は一度帰宅し私服に着替えており、シャンプーの匂いをさせて私の家を訪れた。何の変哲もない2LDKのマンションの間取りなのに物珍しそうにきょろきょろしている。
(背、高いな…それに体全体ががっしりとしていて大きい。学校で見慣れているはずなのに、こうして改めて実感するなんて変な感じ…)
「部屋入ってても、ええ?」
「うん。お茶を淹れるね」
じっと背中を見上げていたら治が急に振り返ったので、どきまぎしながら自室に案内し、自分はキッチンへと移動する。
両親には予め「友達が来る」と伝えてあった。気恥ずかしくて『彼氏』とは言えず、後ろめたさも相まって(昼休みの部室のような空気にはならないかもしれないし)と心の中で言い訳もした。
(でも多分、治はする気だ。それに私も先を期待している…)
そうでなければいつもより早い時間に入浴を済ませるはずがなかった。お茶を探して動く度に、入念に洗った髪と体から甘い香りが立ち上る。それに包まれながら電気ケトルの蒸気よりも熱い息を吐いた。
「…遅いからどうしたんやろって」
「ごめん。すぐ行く」
「ええよ。じっと待ってるのも何やし、手伝うわ」
治はリビングを横切ると私の横に立ち、踏み台を使うことなく吊戸棚にあった茶缶を取ってくれた。ここでもまた体格の違いを感じてどきりとする。
(それにこうして台所に並んでいると、まるで…)
「…新婚さん、みたいやなあ」
考えていたことをずばり言い当てられたのに驚いて、思わず持っていたスプーンをトレーの上に取り落としてしまった。乾いた金属音が木霊する中で言葉もなく見つめ合う。
「…俺、片想い長かったから、お前とこうなれて正直、舞い上がってんねん。お前とおると腹減って仕方ない時みたいになる。ガツガツしすぎて引かれてないか不安やわ」
やがて治は口調こそ淡々としていたが、珍しくしおらしいことを口にした。侑くんと並んで何事にも昂然としている印象だったので、その瞳に浮かんだ揺らぎが意外だった。
「そんな…私だって治といると、ずっとどきどきしてる。告白される前から治のこと、いいなって思ってたし。つき合ってからはもっと好きになってる。引いたことなんて一度もないよ…むしろ治が積極的なのがうれしい」
「…ほんまに?」
「ほんまに!」
紛れもない本心だったので、伝わるよう殊さら強固に言い切ってみせた。
「はは。関西弁、上手くなったなあ」
治はようやく表情を崩し、手を伸ばして頭をひと撫でしてくれた。その手に触れてもらうと安心できるのは、そうして体に触れることが信頼や愛情の証であることを知っている人だからだと思った。
*
開放的な気分に任せて二人で裸になったのは失敗だったかもしれない。
(な、何か想像していたよりも大きい…かも…)
マンションの共用廊下に面した私の部屋は、カーテンを閉めても隙間から常夜灯が壁を照らして薄明るかった。灰色の視界でくっきりと色濃く屹立する男性のそれを目の当たりにし、予想以上の質量に怖気づいてしまう。
「そんな怖がらんでも、別に俺の特段大きないし。毎日の特訓の甲斐あってお前の方も十分ぐじゅぐじゅになっとるから大丈夫やって」
「特訓って…んッ…」
「ほら。ええ音するやろ」
ゴムに包まれた突先を押し当てられたそこは、ちゅぷ、と豊潤な水音を立てた。そして入口をなぞるように動かされると、波打ち際で足を遊ばせた時の頻度で音が響き、快感がにじり寄ってくる。治の体を挟んだ膝が勝手にびくびくと跳ねた。
(あ…入ってくる…)
治が腰を前後に揺らし体重がかかるにつれ、少しずつ割り開かれるのがわかった。
(痛くはないけど…圧迫感があって、苦しい)
早く治の全てを受け入れたいのに。慣れない感覚に勝手に息が上がり、自分の体が思うようにコントロールできないことに気がついた。
枕から頭を上げると、すでに半分くらいが私の中に飲み込まれているのが見える。でも根本にかけてさらに太ましくふくらんでいて(本当に全部入るのだろうか)という疑問とためらいが、再び好奇心を上塗りした。
そこに突如、銀髪の頭が割り込んだ。せり出した乳房を片手で掴み、張った先端を舌で舐めとられ、口に含まれて吸い上げられる。
「んぅ…おさむ、だめぇ………っ!ひぁッ!」
思いもよらない甘い刺激に腰が震える。気が逸れて緩んだ隙をついて、ずぷん!と一気に奥まで開かれた。
「あ…」
強い摩擦が生じて壁を突き破るような衝撃があり、痛みに似た熱が脚の間を走る。仰け反って見上げた暗い天井にちかちかと眩い星がまたたいた。
「も…いきなり…っ」
「目の前でゆさゆさしとったら吸いたなるやん。そしたら中が…」
「解説しなくていいから!…はー、ふふ…緊張してたのに、力抜ける…」
極度に強張っていた心と体が、笑うことでゆるやかに解けていくのを感じた。
(一人でいっぱいいっぱいになっちゃって、治の顔を全然見ていなかった)
ちらりと見やると、急に笑われた治は私の顔の横に手をついて、しきりに目をぱちくりさせている。興奮に頬を上気させ、合わさった裸の胸から平時よりも速くなった拍動が伝わってきた。
(治の必死な表情も体の反応も、全部私がそうさせているんだ…)
それを実感してぶわりと喜びが勢いよくせり上がってきた。異物に隙間なく満たされ戦慄いていた体内が、その感情に呼応して熱くなる。(あれ?)と頭では自分の変化に戸惑っているのに、私のそこは心得たように肉棒全体に卑猥に絡みついて、ぎゅううと切なく治を包み込んだ。
「〜〜〜っ…あかんって!」
「え…?あッ!おさむ、待っ…」
びくんと全身を震わせた治は唐突に叫ぶと、体を起こして私の膝裏を抱え、腰を振り下ろした。突先と最奥とが思いきり衝突し、ずん!と重い振動が脳天めがけて駆け上る。
「はぁッ、ん…!」
瞼の裏にさっきよりも沢山の星が明滅した。
「優しうするつもりやったのに…こんなん、我慢するの無理やわ…!」
侑くんと一緒にいる時以外で、治が大きな声を出すのを初めて聞いた。目を開けてそろそろと手を伸ばすが、逆に固く目をつぶり歯を食いしばった治はそれに気づかない。宥める間もなく、強くて忙しない律動を開始した。
自分の顔の横に力なく落ちた手がシーツを手繰って枕を掴んだ。それでもひたすらに打ちつけられる残響を逃すには足りず、動きの激しさに高い声が上がるばかりで言葉にならなかった。
「ア、だめ…ぇ!奥、…っばっか」
「せやかて、ここ当たるの、気持ちええんやもん…っ、お前もヨさそうやし。なあ?」
治の柔らかく低い声は余裕を失ってなお愉悦を帯びていて、くすぐるように耳に滑り込んだ。思わず顔をそむけるとすぐに追って唇を重ねられ、濡れそぼった熱いキスを交わす。
奥を突かれる度に、腰の中心の辺りにぞわぞわとするものが集まるのを感じ、それが何なのかはさっぱりわからなかった。体の中を鐘が打つように快感が反響する。熱がある時のように頭がぐらぐらとする。『気持ちいい』しか、考えられなくなる。
「あ、はっ…あぅ!何か、きッ…ちゃ…!」
「ヤバ…も、出る…ッ」
全身が弓なりにしなるのを押さえ込むかのように腰を掴まれ、がくがくと数度揺さぶられる。渾身の力で穿たれるのと同時に、これまでとは比べものにならない強い電流が背筋を這い上がり、ぎりぎりで正気を保っていた頭の中を真っ白にした。
(何か…すごく、ふわふわする…)
やがてある一瞬が過ぎると、治が私に覆い被さったまま腕を立てて項垂れ、しばらくじっと静かに耽っている様子が見えた。荒い息を整えながら僅かに上下するつむじをぼんやりと眺める。
「あー、長らく溜まっていたもんが解放された感じやわ………達成感、すご…」
「ん…」
その言葉で、似た感覚を分かち合っているのがわかってうれしくなった。ただ快楽を得るばかりの行為ではないことは、こうして経験してみるまで思いもよらないことだった。
「…またしようね、治」
囁いて腕をまわし、抱きしめて額に口づけた。
*
「戸締まり、ちゃんと確認せえよ。物騒やからな」
スニーカーの靴紐を結ぶために屈んだ治からは、私と同じ石鹸の香りがした。
短い間に匂いが移ってしまうほどにしっかりと抱き合っていたことを思い返し、引き止めるつもりでコートの裾を摘む。日付が変わらないうちに早々と帰ってしまうことが残念で、寂しくてならなかった。
「…治が泊まってくれたらいいのに」
「さすがに親御さんの留守に泊まり込むのは気が引けるわ。まあ無断でお前をキズモノにしといて今さらやけど…信用はなるべく落としたないし」
今夜のことを真正直に話したところで両親の了承を得られるはずもないと思ったが、言わんとすることは理解できた。素直に手を離した後で慰めるように肩を撫でてくれるので、私の身柄を大切に取り扱おうとしてくれている両親と治の厚意を、一時の感情で無下にするわけにはいかないとも思えた。
「体、違和感あったらすぐ連絡せえよ。明日バレーの練習やけど飛んでくるわ」
「ありがとう。部活、頑張ってね」
名残惜しくその後ろ姿を見送り、玄関ドアの内鍵を下ろした。足音が遠ざからないうちに急いでリビングに戻り、南側に面したベランダに下り立つ。明かりの減った景色には静寂が満ちており、しんしんと夜が更けていることを感じとれた。
柵の前で背伸びをし、エントランスに続く通路を見下ろしていると、冬枯れの木立の間を自転車に跨った人影が通る。街灯の下で漕ぐスピードを緩め、振り返ってこちらを見上げた治は、目が合った喜びを表現して、大きく手を振った。
Posted on 2023.11.10
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