義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

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約束の金平糖

夕方にしては暗いと空を見上げていたら西の雲が光った。慌てて洗濯物を取り込み畳の上に放り出して雨戸を立てる。最後の一枚に取り掛かっていると、すっと黒い影が飛び込んできた。畳の上を勢いあまって両足で跳びはねてまわる鴉は私の足元で止まると、つやつやの頭をぐるりと動かして部屋の中を見回した。

「散ラカッテイルナ」

放り出された洗濯物を嘴で指す。

「すぐ片付けますので義勇さんには内緒にしてください」
「ショウガナイナ」

やれやれと首を振る鴉を尻目に雨戸を完全に閉じた。

明かりをつけ畳に座るとちょんと膝に乗ってくる。「水柱カラダ」と文を括りつけた足を差し出された。若い鴉はフフンと得意気に胸を張る。義勇さんのお遣いができることがよほど誇らしいのだろう。

「お務めご苦労さまです。いつもありがとうございます」
「マタ進言ヲ頼ム」

もちろんです、と請け負った。隊士付きの任務伝令役の鴉に昇格するのが夢なのだ。文を外してやると翼を広げながら、てん、てんと跳ね部屋の隅に置いてあった座布団の上に陣取った。足と羽をたたんで落ち着くのを見届けてから細く折りたたまれた文を開いた。

今夜は雨が降るから藤の花の香を強めに焚くこと。戸締まりはしっかりすること。不要不急な外出は控えること。帰りは二日後になりそうなこと。今日は蕎麦を食べたこと。

いつもとそう変わらない内容が流麗な筆跡で綴られている。読み進めながら最後の折りたたみを開くと、ころりと何かが転げ出た。

『街道沿いにいた菓子売りから買い求めた。鴉に持たせるのは一粒しか叶わなかったが、残りは帰宅後に渡す』

手紙の最後はそう締めくくられていた。乳白色の可愛らしい砂糖菓子を明かりにかざす。小さな先の丸い突起が指を押し上げる固い感触。金平糖なんて久しぶりに見た。

「水柱モソウシテイタ」
「義勇さんが?」

この小さな砂糖菓子に何を思ったのだろうか。なんとなく思い出されたのは寂しげな横顔だった。

気がつくと鴉は興味を失ったのか寝息をたて始めていた。薄掛けを出してかけてやる。雨がぱたぱたと屋根を叩いている音が聞こえる中、返事を書こうと筆をとった。

***

空が白み始めた頃、鴉が一羽肩に降り立った。差し出された文を開くと、お手本のように形のいい文字が並んでいる。

家の様子に特段変わりはないこと。外食では油ものや塩気の強いものは控えてほしいこと。適度な休憩をとること。できるだけ怪我はしないでほしいこと。無事の帰りを心より祈っていること。

最後に『可愛らしいお土産をありがとうございます。残りを楽しみにしております』と添えられていた。

「彼女は喜んでいたか」

俺の問いかけに鴉は唸りながら首をひねった。

「喜ブトイウカ…不思議ソウニシテオリマシタ」

何だそれは。詳しく聞き出したかったが鴉に人間の機微の理解を求めても無駄かと口を閉ざした。確実に笑顔が見たくて先んじて知らせたのだが、結局直接会うまで反応はわからなさそうだ。

ため息をついて刀を持ち直した。空は厚い雲に覆われ今日は日中でも忙しくなりそうだ。懐にしのばせた残りの金平糖がじゃらりと音を立てた。

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