糸師兄弟の幼馴染
糸師凛
兄貴に惚れていると勘違いされている幼馴染の夢話。始まりはアレですがハピエンです。
【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。
目次
本編
2023.02.17
2023.02.24
2023.03.17
2023.03.03
2023.03.24
兄貴に惚れていると勘違いされている幼馴染の夢話。始まりはアレですがハピエンです。
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2023.02.17
2023.02.24
2023.03.17
2023.03.03
2023.03.24
「近くで飲み会があったんだけど、しつこい人が居てムカついたから出てきちゃった。糸師兄弟の名前出しても全然怯まないの。俺の方がカッコいいって。冴ちゃんと凛に敵う男なんてこの世に居ないよ。あー、時間を無駄にした」
大学生になった幼馴染は夏の匂いをさせていた。ノースリーブから伸びた二の腕が眩しい。
何を目的とした飲み会だったんだよ。思うだけで尋ねないのは会話が噛み合わない事を予想していたからだ。ブルーロックを出てプロ入りを果たした俺は一般的な学生生活を知らない。想像できるのはせいぜい水槽の中みたいに窮屈だった高校までだ。どういう経緯をたどれば学校で露出の多い服を着た日に、知り合いでもない異性と酒を飲みに行く流れになるのか。まるで理解できない。
「連れて来いよ。そんな雑魚、一瞬でノシてやる」
「あはは、そうしたらもう一生モノのトラウマだね。本物の糸師凛はメディアの中よりもずっとカッコよくて凶暴だもん。オーラのせいで変装してもすぐにバレるし、超ストイックでトレーニングばかりしているし、納得できないとチームメイトとも殴り合いのケンカをしちゃうし」
「何で泣くんだよ」
「ムカついたんだってば。冴ちゃんと凛に会った事もないくせに切り取った情報だけで知った顔をされるのが嫌なの、っ………どうしてキスするの。どこでスイッチが入ったの」
「どうでもいい事をいつまでもくっちゃべってるからだろ」
そのままソファに押し倒した。癇癪を起こした訳ではなく、言葉の通り顔も名前も知らないナメた男の話など心底興味がないからだ。話を続けようとする唇に舌先を潜り込ませこじ開けて奥まで舐めつくす。酒の味はしなかった。
「凛…、汗かいたからシャワー浴びてからにしたい」
「…許す訳ねぇだろ」
この状況で更に待たせる気かよ。鬼かテメーは。
ブラウスのボタンを上から外し露わになった首筋から鎖骨にかけての曲線をゆっくりと唇でなぞる。服の中はむせ返りそうなほどの甘い匂いで満ちていた。オスを誘うメスの香りだ。くらくらする。
(…シャワーなんか浴びたらこれが弱くなる)
恐らくその男は一生知る事はないのだろう。キスをした後のこいつの顔も、服の下に隠した女の証も俺の痕跡も。
「あ、痕つけないで」
「外から見えない所ならいいんだろ」
本当は全身に残したいのだが、行為自体を拒まれないだけマシなのだと我慢をする。恋人ではなくただの腐れ縁。俺が入団を機に家を出たのを幸いとし、自分の家にまっすぐ帰りたくない時にふらっと立ち寄れる都合のいい存在。だからこいつがどんな恰好で何処で誰に会おうと自由だ。俺には縛りつける義理がない。
「着替える時に思い出しちゃって恥ずかしいの。凛の馬鹿」
狙い通りだ。誰がやめるかよ。赤い顔で睨んでくるのに「べ」と舌を出し、ブラジャーをずらして膨らみの上の方に吸いついた。文句の代わりの甘ったるい吐息に気をよくしてスカートの中に手を入れる。指先が少し触れただけでわかる。何だこれ。ぐちゃぐちゃに湿っていて熱い。いつからこんな。
「すげぇな。同じの履いて帰れんのかよ、これ」
揃えた両脚を肩に担ぎ上げて脱がせながら太腿の隙間で糸を引く様を見せつけた。足の間を中指の腹で探ると、すでに十二分にとろけており慣らさなくても具合が良さそうだ。柔らかく熱い壁にぴったりと包まれるのを想像して喉が鳴った。頭がぼんやりとしてくる。もう、入れたい。
「凛がいっぱい、触るから…」
顔を隠した腕の下から漏れた震える声にギリギリで保っていた何かが焼き切れた。スウェットのポケットに隠し持っていたコンドームのパッケージを食いちぎって開ける。下半身丸出しで装着をする姿は我ながら呆れるほどマヌケだ。凝視されるのに耐えかねて、咥えたままだったパッケージをソファの下へと吐き捨てて唇を塞ぐ。さっきはされるがままだった舌先が意思を持って絡みついてきた。
お互いの背に腕を回して抱き合う中で唾液の他に交わすものが愛でなければ何なのか。サッカー以外は不精な自覚があるので「いい加減気づけよ」と思う。リソースも時間も全部注ぎ込んでサッカーだけをしていたいのが本当の俺だ。しかし、こいつにはそのエゴを一時でも上回る引力があった。
「ふ、…凛の、も…欲し」
「…ああ、全部くれてやるよ」
だからお前も持ってるモノを全部寄越せ。言葉の代わりに熱塊をあてがい、ゆっくりとその腹の中に沈んだ
***
【凛とはどうなんだ】
凛から和解の報告を受け、久しぶりに連絡をとったもう一人の幼馴染は的確に痛い所を突いてきた。冴ちゃんの方ではとっくに既読のマークが表示されているはずだ。それをいい事にどう返信をするのかをじっくりと悩んでいる。
何もない、と一言で片付けてしまうには冴ちゃんがスペインに渡る前と今とでは、あまりにも状況が変わりすぎていた。かといって真正直に曖昧な関係を続けている事を伝えるのは気が引ける。凛よりも完璧主義のきらいがある冴ちゃんは潔癖で厳格だ。私にだけ怒るならまだしも、また凛とケンカになったりしたら嫌だ。
【片思いのままですよ】
これが一番正確な回答。私にはずっとこの恋心しかない。凛と会う度に実感する懐かしさにも似た愛しい想い。でも体も環境も変わっていく中で、まっさらなだけでは繋ぎ留めておけないのだと知ってしまった。終わりを切り出す勇気もない。
ポコンと音がして画面の左側に新しい吹き出しが表示される。
【グズ】
ぐうの音も出ない。しかも実態は冴ちゃんの想像よりももっと悪いのだ。
「…ねえ、凛はどうして私が冴ちゃんの事を好きだと思っていたの?」
「後にしろ馬鹿。それどころじゃねぇんだよ」
シャワーの後で寝間着代わりのティーシャツを私に奪われ、ボクサーパンツ一枚で部屋中を徘徊する羽目になっている凛の機嫌はすこぶる悪い。服を返す気はないのでせめて風邪を引かないようクーラーの設定温度を上げた。この服が一番凛の匂いが強いのだ。抱きしめられているようで安心する。セックスの時の縋るような荒々しい抱き方ではなく、優しく慈しまれているかのような錯覚を噛みしめる。昔冴ちゃんに『お前それマゾって呼ぶんだぞ』と怪訝な顔をされたのをふいに思い出した。
「私の服をぐちゃぐちゃにしたのは凛でしょ。シャワー浴びてからにしようって言ったのに」
「だから洗って乾燥機にかけているんだろうが。せっつくな、タコ」
兄にはのろまと評され弟にはせっかちだと罵られた。息が合っているんだかいないんだか。奇妙な符号に吹き出してしまう。
結局適当な夏服が見つからなかったのか薄手の七歩袖のシャツに着替えた凛は、ガシガシと乱暴に髪を拭きながら私が寝転がっているベッドの端に腰を下ろした。隣に座り直し垂れた前髪に手を伸ばして整える。覗いた鋭い光と視線がぶつかり前にも同じような事があった気がした。あれは雪の日だっけ─
「…中学の時、一緒に勉強してただろ。俺が教師に『赤点を抜け出せなきゃ土日も登校しろ』って言われて」
「そうだったね。『幼馴染なら面倒見てやってくれ』って私まで呼び出されてびっくりした」
クラスが分かれた上にクラブチームを辞めた私は、凛とは自然と距離が離れ廊下ですれ違っても目を合わす事すらなくなっていた。職員室で並ぶと私よりもずっと背が高く、知らない男の子みたいだと思ったのを覚えている。
「凛ってば『サッカーに時間を使いたいから勉強をする暇がない。ギリギリ赤点にならない程度で充分』とか言い出すんだもん。でも代わりに凛から英会話を教えてもらったんだよね。学校の授業とは全然違っていて新鮮で面白かった」
あの時の教師の思いつきと気まぐれな采配が今に繋がっている。私は語学への興味を一層深めて進学を選び、二度と補習を受ける事がなくなった凛はプロになった。巡り合わせとは不思議なものだ。あの出来事がなかったら凛への想いは間もなく泡沫のように私の中から消え去っていただろう。
「勉強の合間に渡西した兄貴の事をよく話題にしていた。その中で俺が─」
『お前…兄ちゃんの事が好きだろ』
『冴ちゃん?うん、好きだよ』
何それ。
「全然覚えてない」
「だろうな」
凛は太い溜息をついて立ち上がる。私がそこまではっきりと言ったのであれば言葉の通りに受け止めるのが道理だ。当時はどういう脈絡で回答をしたのだろうか。いずれにしろ軽薄には違いないが、ここまで尾を引く事を予想できるはずもなかった。
「待って。覚えてないけど絶対に深い意味はなかったって断言できるよ。だって私はこれまでに一度も凛以外を、」
必死に弁解をしようとして、はっと口を噤んだ。今フラれたら立ち直れない。海岸での告白の返事が有耶無耶にされている以上、ここで言ったら曖昧なのも辛くなる。イェス以外は要らなくなってしまう。
じわりと涙がふくれ上がる気配がして慌てて視線を逸らして瞬いた。『サッカーと冴ちゃんでいっぱいの凛が好き』だったはずだ。いつからこんなに欲張りになったのだろう。
「…俺以外を、何だよ」
「帰る」
「おい、まだ話は終わってねぇぞ」
「帰るったら帰る。私には理想の時と場所ってものがあるって言ったでしょ。つ、月並みだけど夜景の見えるレストランとか…とにかく今日は違うのっ。洗濯してくれてありがとう!洗面所借りるね!」
引き戸を閉めた後で、勢いに任せてまた微妙な事を口走ってしまったのに気がついたが、凛は追いかけてこなかった。足の力が抜けてへなへなと座り込む。
思い出せないけれども今ならわかる。昔の私は冴ちゃんの事を尋ねられたから簡単に『好き』と言えたのだ。
「電車もバスもないのにどうやって帰るんだよ」
「歩いてとか」
「…俺が出て行くからお前はここに居ろ。始発が動くまで部屋から出んな」
「そんな迷惑かけられない」
「いきなり来て人んちの洗面所に籠城してるヤツが言う事じゃあねぇだろうが」
それはそうだ。凛が正しい。着替えようと顔を拭いて立ち上がった。家に帰る方法を考えるのは後にして一刻も早く出ていくべきだ。凛はお気楽な学生である私とは違う。こんな時間に外を歩かせて事故に遭ったり絡まれでもしたら、それこそ日本の威信に関わる。
「ついてこないで」
「うるせぇ。ちょうど外に行くところだったんだよ」
「練習や試合に影響が出たらどうするの。ちゃんと休んで。私なんかに構っている場合じゃあないでしょう!」
「…あ?」
唐突に凛の纏う空気が変わったのがわかった。濁りのあるドスの効いた本気の「あ?」だ。影になった前髪の下で凛の瞳が薄青く、不穏に揺らめきながら輝いていた。こうなったら何を言っても無駄だとよく知っている。感情的になって無茶な主張を通そうとする私を黙らせるのに最も有効な手段だ。
「…ごめんなさい………」
「別に怒ってねぇよ」
嘘だと思ったが火に油なので黙っていた。急に肌寒く感じて剥き出しの二の腕を擦る。胸にあるのは怒りをちらつかせた凛への恐怖ではなく、こんな事態を招いてしまった事への後悔だ。何でこうなってしまったのだろう。
凛の顔を直視できずにいると、ふいに布のようなもので覆われて視界が暗くなる。取り去って手の中を確認すると正体はさっきまで借りていた凛のシャツだった。
「何拗ねてんだか知らねぇが俺の足を引っ張りたくなきゃさっさと着替えて寝ろ。ぬるい駄々こねやがって…それともまた脱がせてやろうか」
「…自分でやるからいい。凛のスケベ」
私の中で張りつめていたものが一気に和らぎ、もう無理にでも帰りたいとは思わなかった。凛は私の頭をポンと一つ叩くと部屋へと戻っていく。
もう一度好きって伝えたい。違うな、私は凛に好きだって言って欲しいんだ─でも天地がひっくり返ったって凛はそんな甘い言葉を選ばないだろう。どういう顔で、どう話すのだろうか。十年以上幼馴染をやっていても到底想像できない凛の一面がある。
強い通り雨が屋根を叩き始めた。すぐに滝のような轟音に変わり、同じベッドに並んで眠る凛と私を深い夜の底へと閉じ込める。このまま朝にならなければいいのに、なんて。意気地のない泣き言を凛は絶対に許してくれない。寝返りをうつふりをして広い背中に額をつけ(明るくなる頃にはいつもの私で戻れますように)と、止めどない水流がきれいさっぱり流し去ってくれる事を祈った。
Posted on 2023.03.17
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