同期のぼんやり隊士
我妻善逸
善逸と諸々訳あり同期隊士の夢話。
目の前の男の気配が変わった。本気の善逸が出てきたんだ。
今しがた俺に落とされてだらりともたれ掛かってきていたのに、腕の中は軽くなり向かいの戸の前に影が立ちはだかる。相変わらず、速いな。そしてその体はずっと大きく見えた。
初めて対峙した時には俺を鬼の間者とみなして斬りかかってくるんじゃないかと思った。迷いのない閃光のような太刀筋の後に残ったのは躯ばかり。宙を飛ぶ頸と崩れゆく鬼から舞い上がる塵の中で振り返った善逸は、沢山の子どもを贄とした俺を地獄へ叩き落とす為に遣わされた死に神なのだと確信した。
「君からはちゃんと人間の音がするから斬らない」
俺を、人間だと言うのか。『音』って何だよ。
固まっているうちに「ふがっ」と声を上げて目覚めた善逸は、自分の周りに散らばる残骸を見てぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。先刻の神々しさはかき消えていた。
「…やっと赦されると思ったのに………もう、疲れた…」
「ええっ?こんな山の中で眠くなったのかよ。しょうがないなあ、俺がおぶってやるから」
もう少し頑張れ、と差し出された黄色い背中はひょいと苦もなく立ち上がった。俺を背負ったまま小走りに斜面を駆け下り始める。
どうしてどっちの善逸も俺を生かそうとするんだろう。望まれない人間なのだと俺自身が誰よりもわかっているのに。
「あ〜〜〜泣くなって、悪かったよ!肝心なところで気絶しちゃって…あの数の鬼を一人で斃すなんて、お前すごく強いんだなあ。鍛錬も頑張ってるもんな、俺は逃げ出す事ばっかり考えてるのに」
本当は善逸が全て斃してしまったのだけれど、労われたのが嬉しくて黙っていた。善逸は俺の忌まわしい過去を承知している。その彼に慰められた事で、俺自身の手で重ねてきたものは努力として認めて良いのだと思えた。
以来、闘いの場は俺が生かされた意味を尋ねる機会となっている。もう過ちの赦しを乞う場ではない。
「本当に言いたい事は一つだけだ。俺は君の邪魔をするつもりは毛頭ない。ただし、必ず生きて帰れ」
神様にきっぱりと言われて気が楽になった。帰って来いと言ってくれる人がいる。その事実の何と心強い事か。
「帰ってくるよ…必ず」
たとえ目を覚ました君が、今度こそ俺を汚れた人間だと忌避するとしても。
Posted on 2020.05.15
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