同期のぼんやり隊士

我妻善逸

善逸と諸々訳あり同期隊士の夢話。

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啓蟄の雷鳴 二

「昨日までの髪は鬘(かつら)で…俺、体が小さいし出自もあれだから『十七になるまでは男としておきなさい』って、鬼殺隊に入る時にお館様と蟲柱が決めたんだ…」

隊服の裾から細く伸びた脚を抱え、その上に小さな顎を乗せる。「丸まっていると落ち着く」とこいつのお決まりの座り方だ。

風の中にほのかにしのぶさんと同じ白粉の匂いが混じる。露出した膝小僧は真ん丸ですべすべで、男のそれとは全く違った。なのに『俺』なんて、昨日までと同じ調子で言うものだから物凄く混乱する。どうしよう。どこからどう見ても女の子にしか見えない。

「いつも通りにすればいいだろう。変わったのは、風体だけなんだから」

そう言ってあっさりと任務に出掛けた炭治郎を恨んだ。

いつも通りって。炭治郎は性別どころか人か否かすら介さない奴だから動じる筈もないし、伊之助に至っては興味を示さないだろう。今日はまだ一度も見かけていないが、「ふうん」と言うだけで自分の事に没頭する様子が浮かんだ。

俺は駄目だ。女の子だと思うと皆お嫁さん候補に見える。無論、隣のこいつも。昨日まで腹が減るのに任せて、がつがつと同じ釜の飯を貪り食っていたのに。

「善逸?」

膝に頭を乗せたままこちらを向いた。長い髪がさらさらと流れ落ちて、少し眠そうに見えるぼんやりと焦点の合わない瞳が顕になる。何か塗っているのか柔らかそうな唇が淡く色づきつやつやと光っていた。ぶわっと全身の毛が逆立つ。他の音の一切が遠くなって自分の心音が大きくはっきりとした。

「いや…その、」

服装をちょっと変えて化粧を施すだけでこんなに見え方が違うものなのか。じっと見つめられると大きな瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。やばいやばいやばい、何か言わなきゃ変に思われる。でも、何て?

「………ま、馬子にも衣装だな、…と思った」

我ながら気が利かないどころか最低な感想だと思った。照れ隠しにしても、もっと他に言い様があっただろうに。後悔したが、もう遅い。

なんか、変だ。女の子はとにかくめちゃくちゃに褒めて、相手も俺の事を好いているのだと直感したら求婚してめでたしめでたし、後は幸せな日々が待っているものなのだと思っていたのだけれど。まず『可愛い』が口にできない。こんな事は初めてだった。

「…着替えてくる」

一瞬だけ、ざっ!と不協和音の中に強くて鋭い音が混じったのに気づいた。まさか、傷つけた?俺ごときの言葉で?嘘だろ?

どんな異形を前にしても、子どもの姿を巧妙に模した鬼を斬る時にも、全く揺らぐ事のない重厚が短く乱れたのを確かに聞いた。すたすたと立ち去る背中を追いかけて慌てて腕を掴む。

「ままま待てよ!ご、ごめんね!俺ってば無神経で」
「別にいいよ…胡蝶様が折角だから皆を驚かせようってカナヲの服を着せただけだから…ひらひらしてて、落ち着かないし」

抑揚のない言葉と硝子玉の瞳が向けられる。握り拳を作った手は震えが伝わってくる程に力が込められているのに、振りほどけないのか。俺は全然強く握っているつもりはないのに。

誰かが言っていた。こいつは隊士としては非力な代わりに型の一つ一つが恐ろしく正確で、刃が対象に触れる刹那に力を入れるのが上手いのだと。だから同期の俺たちよりもずっと長く動ける。どんなに過酷な現場でも一人飄々と立っているので「横着してる」なんて因縁をつけられて悪目立ちする事もあるけれど、今なら納得できる。

女なんだ、紛う事なき。最初から、生まれた時から。俺とは違う生き物なんだ。

「、ウ」
「う?」
「ウワーァァァアッ!」

耳なんて良くなければ良かった。少しでも距離をとりたくて、勢いで傍にあった木に登って逃げたのに。下から「変な善逸」と不思議そうに呟く声が聞こえてしまうのだから。

俺の事、「変」だって。炭治郎の「気持ち悪い」よりもグッサリと刺さるものがあるのは何故なんだろう。

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