義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

SS

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初めての焼きおにぎり

なるほど、家に人がいるということは自分の予定は正確に告げねばならないということなのか。ばたばたと慌てて台所を漁る背中を見て思う。

「すまない」
「いいえ、私も気がきかず申し訳ありません」

あまりの慌てように「ありもので構わない」と告げると余程焦っているのか「ありもの…?ありもの…」と小さく呟いて、ぐるぐると台所の中を逡巡し始める。もう何も言わないほうが良さそうだと、大人しく居間で待つことにした。

今夜は戻らない、とは言ったが帰りが具体的にいつになるかは言わなかった。家主が不在の五日間は長かったのだろう。床や壁は磨き抜かれ、仕舞い込んであった季節外の寝具が庭に干されていた。襖や障子が開け放たれた家の中はぽかぽかと陽射しが入り居心地がいい。管理する人間が違うとこうまで様子が異なるのかとぼんやりと考えた。

「お待たせいたしました」

快活な声に振り返ると、ぷんと香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。

丸い盆に載せられた握り飯には片面にたっぷりと味噌が塗られていた。網で炙ったのだろう、格子状の焼き目がついている。この香ばしさは味噌が焦げた匂いか。店で頼むものは醤油ばかりで味噌は初めてだ。一口頬張ると味噌の味と香りが口の中に一気に広がった。砂糖を混ぜたのか仄かに甘さも感じる。焦げの部分はカリカリとしていて、握り方が上手いのだろう、ほろほろと程よく解けて米の一粒一粒の食感が活きている。「美味い」と素直な感想が口をついて出た。

「冨岡様のお口に合ったようで光栄でございます」

堅苦しい物言いに思わずもらった茶を吹きそうになる。まるで殿様にでもなったかのような扱いだ。

「義勇でいい」
「でも私は居候の身です」
「それでは気が休まらない」

それきり唇を噛んで沈黙した。彼女の中では余程の問題なのか。握り飯と茶をすすりながら返事を待つ。暫くして意を決したように口を開いた。

「義勇様」
「義勇でいい」
「……義勇…さん」

及第点か。気まずそうに目をそらされるところを見ると慣れるのには時間が必要そうだ。そこまで考えて自分に彼女を長く家に置く心積もりがあることに初めて気がついた。

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