続・義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

大正では道が分かれてしまった二人。現代へと転生しキメツ学園の職員として再会します。やっと出会えた彼女には大正時代に共に過ごした記憶がなく、積み上げた関係はリセットされてしまったように思われましたが─
生きる時代も背景も理由も変わってしまった中、再びどう絆を結んでいくのかを描く夢話です。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

再会の四月編

進展の五月編

転がる六月編

続く七月

番外編

番外の番外編

完結はしましたが、ありがたいことにリクを頂いたのでパラパラと書いております。
結婚後の話が中心です。子どもがいたりします。

Novels 一覧

つかの間のしじま

義勇さんは意外にも子煩悩だ。家では物凄く良いお父さんをしている。そう言ったら錆兎くんに「二人も設けておいて何を今更」と笑われてしまった。

(まあ、子どもが好きでないなら学校の先生になんてならないか…)

息子が小学校での出来事を喋るのに夢中になる余り、手元が疎かになるのを助けながら「食べ終わってからにしなさい」と優しく嗜める。かと思えば離乳食で口の周りを豪快にべしょべしょにした娘の顔を拭いてやる。自分は昔と変わらず頬にお弁当をつけているのに、子どものことになると案外器用に立ち回るのだ。

「座ってていい。あとは俺がやる」

ぼんやりとしていたら空になった茶碗をとられた。「俺も手伝うよ!」と後に続く息子が、義勇さんが水切りに並べた皿を拭いていく。卓に残された娘は暫くプラスチックのカップを転がしていたが、私では相手にならないと踏んでぐずりだした。義勇さんは一度水を止めるとおんぶ紐で軽々と背負い上げ、皿洗いを再開する。お兄ちゃんにも構ってもらえて忽ち機嫌が治り、ダイニングには無邪気な笑い声が響いた。

(ジャージで子守をしながら皿洗いなんて、まるで年の離れた兄弟がいる学生みたい)

若々しいを通り越していっそ幼く見えて可愛らしいのだ。独り暮らしの時はお米を炊くのも面倒臭がっていたのに、小さな足に背中を蹴飛ばされようが髪を引っ張られようが全く動じずこなしている。ついまともに相手をしてしまう私よりもずっと手際がいい。興奮した娘の行いは息子が慌てて止めに入るくらいやんちゃなのだが、「健康な証拠だ」と飄々としていた。

「みんな成長が早くて寂しい…」

子ども達が寝た後の晩酌で溜息と共に脈絡なくこぼす。義勇さんはすかさず度数を確認すると眉根を寄せ「飲み過ぎだ」と私からグラスを取り上げた。前は止めなかったのに。『成長が早いみんな』には貴方も入っているのですよ、と唇が尖ってしまう。

「手がかかる方がいいのか」
「そうですねえ…忙しい方が性に合っているのかもしれません」

贅沢なぼやきである自覚はあった。こうしてのんびりと夫婦の時間を持てるのは義勇さんの協力あってこそなのは理解している。順風満帆だからこその無い物ねだり。我儘。甘ったれ。酔いに任せてそう言うと「そう自分を追い込むな」とくつくつと喉の奥で笑われた。

その横顔を眺めていて気がついた。洗ったばかりの伸びかけの髪から雫が垂れそうになっている。柔らかな笑みが映り込んだそれが綺麗だと不覚にも見惚れてしまった。子ども達が居ないとほんの少しだけ緩む、私だけが知っている彼の一面。出会ったばかりの頃が思い出されて胸の奥がきゅうと苦しくなる。

「…油断していると風邪をひきますよ」

蘇った想いごと打ち消さねばと彼の肩にかけてあったタオルの端で拭うと、驚いたように見返してきた。すぐに察して頭を差し出してくるので、そのままわしわしと手を動かすと気持ち良さそうに目を細める。可愛い。今度の義勇さんは大きな動物みたいだ。

「…暇が出来て困ると言うのならば、三人目を考えるという手もある」

ついでに頭皮マッサージを、と夢中になっていたのでその瞳を見るまで気がつかなった。乱れた前髪の間から覗く獰猛さを秘めた深い色─その視線に捕まると金縛りにあうことを久しく忘れていた。案の定、声が出ずにこくりと喉が鳴るばかりだ。

「お母さん、トイレ行きたい…」

舌足らずな小さな呼びかけに張り詰めた空気は一瞬で吹き飛ばされた。目を擦りながらよちよちと歩み寄ってくるのを確認するのと同時に、強張っていた筈の手も足もいつも通りに動く。欠伸をする息子に付き添いながらちらりと振り返ると、義勇さんは淡々とした表情で私のグラスの残りを煽っていた。

「顔が赤いよ。飲み過ぎたの?」

彼によく似た顔で同じことを言う。「貴方のお父さんが素敵過ぎるのよ」なんて返せる筈もなく「大丈夫」と曖昧に笑ったが、早熟の気がある息子は腑に落ちない様子で首を傾げていたので誤魔化しきれたかはわからなかった。

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