煉獄さんの許嫁

煉獄杏寿郎

炎柱煉獄さんの婚約者との日常を綴る夢話。 婚約は結んでいるのに、まだまだこれからな二人。頼れる兄貴な煉獄さんに甘やかされる話が中心です。

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目次

序章

※暗めです

本編

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猛炎の余燼

彼が呼ぶのと同じ調子で私の名が響くのを聞いて予感が掠めた。明け方に降り立つ濡れ羽が齎すものが吉報である筈がなかった。しかも今この屋敷は私一人なのだ。

「何も言わないで。全て…わかっているから」

口を開きかけた鴉は二度瞬きをすると、ことりと首を傾げた。そして泣くことを思い出したかのようにぽろぽろと雫をこぼし始める。

すすり泣くの慰めながら見上げた空は高名な絵師が描いたかのような澄んだ色をしていた。陽は眩むほどに白く燦々と降り注ぎ、青黒く染まっていた遠くの山はみるみる本来の緑を取り戻していく。彼が旅立つ朝が何故こうも美しいのだろう。あってはならない事柄のような気がして暫く呆然と眺めてしまった。

(愛があればその瞬間を悟れたのではないかしら。あの人が逝く時分にぐうたらと寝こけていた私は…やはり婚約者失格だわ)

いつまで経っても涙が出ないのは私の中にあるものが恋情ではないことを示していた。真っ当な男女の始まりではなかった。死地に赴くのを引き止めたこともない。

─恋と認めたら負けなのだ。最後まで恨ませて欲しい。

「杏寿郎様…」

失われた希望を口にする。同時に吐いた息が消えるやいなや、既に燃え尽き二度と灯らないであろうことを理解した。

鴉を庭に放ち廊下を引き返す。自分の持ち物を跡形もなく片付けなければ。人徳の多い彼のことだ、昼過ぎには別れを惜しむ人々が押し寄せるだろう。好奇の目に晒されるのは避けたかった。

私は隠された許嫁なのだから。

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