続・義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

大正では道が分かれてしまった二人。現代へと転生しキメツ学園の職員として再会します。やっと出会えた彼女には大正時代に共に過ごした記憶がなく、積み上げた関係はリセットされてしまったように思われましたが─
生きる時代も背景も理由も変わってしまった中、再びどう絆を結んでいくのかを描く夢話です。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

再会の四月編

進展の五月編

転がる六月編

続く七月

番外編

番外の番外編

完結はしましたが、ありがたいことにリクを頂いたのでパラパラと書いております。
結婚後の話が中心です。子どもがいたりします。

Novels 一覧

巡る春番外編 常闇の終局【完結】

(─…暗いな)

墨の中を歩くようだ。見渡す限り漆黒だった。

足の裏を押し返す感触は確かにあるのに、地面と呼べるものを一切目する事が出来ないのが不思議だ。少し力を入れれば泥のように柔らかく沈むのか、それとも踏み抜いて奈落の底へと真っ逆さまになるのだろうか。この無限の闇の中を歩き続けるくらいなら、いっそ落ちる先がわかるだけましと思えた。

これが『死』だ。外界から切り離された完全な孤独。果てのない虚無。一度経験したのだから確信があった。

「始祖は百年も昔に滅した!お前の現身は俺が屠った!永らえることは不可能なのだから人を喰らう欲すら持たないだろう!それなのに何故、尚もつき纏う…!」

怒りに任せ腹に力を入れ暗闇に呼びかける。はね返すものがないので声は真っ直ぐに飛んでいった。

夜中に飛び起きるのは雨が短く降ったり止んだりを繰り返す落ち着かない気候と、子を宿したことで心身ともに変化した為だと言い張っていたが、幼い頃から見る夢に苛まれているのだとようやく白状した。

「義勇さんが助けてくれるから大丈夫だとわかっているのに、どうしても恐くて」

か細い声が告げる不穏の気配。すぐに原因に思い当たった。それ程に強い因縁が遺るのならば彼奴に引導を渡した張本人である俺でも辿れる筈だ。目論見どおり、あっさりと此処に来れた。

腰に下げた柄の手触りと重みが懐かしい。恐らく『呼吸』も使えるだろう。この場は遥か昔にのさばった奴等と、全てを奪われ打ちひしがれていたあの頃の彼女の夢なのだから─

「…来ないのであればこちらから仕掛けるまでだ」

張り上げた声に全く反応がないので、取り出した古めかしい懐剣を前方へと投げつける。途端に闇を裂く太い雷が刃へと落ちた。唸りが止む頃にほうぼうで爆ぜた火を分けたように明かりが灯り、壁や床を照らし小さな部屋を形作る。最後に部屋の入り口らしき場所に立つ二つの影が映し出された。

花の咲いたような朗らかさは失せ、恐怖に顔全体を引きつらせている。無理やり顎を掴まれ上を向かされ、物のように自分を見聞する異形に負けまいとするように、まともに向かい合っていた。

無言で斬りかかる刹那、彼女が確かに俺を見た。そのまなざしが晴れる。助けが来たのだと悟ったのだ。「義勇さん、」と健気に俺の名を呼ぶので、引き寄せられるようにもう一歩強く踏み込んだ。宙に飛ぶ鬼の腕とともに投げ出されたその体を受け止める。

「すまない。遅くなった」
「いいえ…必ず来てくださると信じていました」

顔をうずめたまま深い安堵を滲ませた。しがみつくのを空いた手で抱き返す。

切っ先をつきつけた異形は定められた始祖の呪縛から逃れたのだ。最早鬼と呼ぶのが正しいのか甚だ怪しい。夜を徹してでも抗うと既に決めていた。そして二人で穏やかな日の下に帰るのだ。

「そう怯えるな。母親の貴女を守ろうとお腹の子が先んじて出てきてしまったらそれこそ大事になる」

隅に降ろし羽織を頭から被せる。冗談のつもりだったが、笑ってはくれなかった。傍目にもわかる程に震え沢山の涙を溜めて、引き止めるように俺の腕にすがる。どうやら信用されていないらしい。

「貴方に何かあったら私は…私とこの子は」
「勝算なく立ち向かう訳ではない。この時代の俺とて、ただの人ではないのだから」

努めて笑ってみせた。しきりに首を振って雫を追いやろうとするのを拭ってやる。

「白髪になるまで一緒に居ると神に誓った。違えたら今度こそ天罰が下る」

そうして言葉を交わす間も異形はずっとこちらの出方を窺っていた。慎重なようで、絶えず俺から向けられる殺意に躊躇しているようにも見える。

呼吸を数回繰り返して力を体内に溜め込んだ。間もなく手足の先まで熱いものが満ち、膨らんだ筋肉は瞬きよりも速く俺の体を彼奴の元へと運ぶ。静かに青く光る剣が稲妻のごとく狙ったところを通った。確かな手応えの後にあるはずもない水飛沫が散り、逆巻く波を作り上げる。白い穂頭に躍らされた頸があっさりと地に落ちた。
たちまち風が起こり、ぼろくずのように崩れ始めた体を吹き上げていく。螺旋を描いて高く高く昇る先は光に溢れ、目が眩んだ。遥かなる上空で切れ端が浄化されるかのように次々と粉になるのを見届ける。

ようやっと全てに決着がついたのだ。ここまでの旅路の距離に思いを馳せる。それぞれの因果は完全に絶たれたのだろう。後には俺と彼女の結びつきが残るのみだ。

天からの白い光を浴びたその姿を淡い色の着物がくっきりと際立たせていた。俺の羽織を抱きしめ呆然としている。何か言いたげに唇を震わせるが、尋ねられても答えられる気がしなかった。説明したところで夢幻として忘れ去られる。それでいいと思っていた。現し世で再び紡いだ絆は既に強固で揺るがないものへと昇華していると確信があるからだ。

「憶えていたらで構わないが、夕飯は鮭大根がいい」

光の向こうで「まあ」と驚いた声がした。「一昨日も食べたのに」とも。

「助けてくださってありがとうございます─…大好きです、義勇さん」

白む世界の中で確かに笑ったのがわかった。

10か11月予定の本で番外編を用意しますが、ここで公開するものとしては完結とさせていただきます。長きに渡りお付き合いいただき、ありがとうございました。

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