糸師兄弟の幼馴染

糸師凛

兄貴に惚れていると勘違いされている幼馴染の夢話。始まりはアレですがハピエンです。

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On Cloud 9

「りーん、離して。もう寝ないと明日辛いよー」
「…やだ」

いつもなら「あ?」とか「うるせぇ」なのに。

(『やだ』って何それ。凛がかわいい…!)

凛は離すまいと訴えるかのように私の体にまわした腕に力を込め、さらに肩にぐりぐりと額を押しつけてくる。その仕草から幼少期を思い出した。何でも冴ちゃんの真似をしないと気が済まなかった頃の凛だ。希望が通らないとこうしてよく冴ちゃんにしがみついていたっけ。

ブルーロック出身のメンバーとの飲み会がそんなに楽しかったのかな。いかなる時も節制を心掛ける凛が前後なく酔っ払うのは珍しい。直接会うのは初めてだったけれども送り届けてくれたメンバーはみんな人がよさそうだった。「たくさん友だちができてよかったね」と髪を撫でてあげる。凛は私の服に顔をうずめ、くすくすと笑った。

(甘えてもらえるのはうれしいし凛の気が済むまでつき合ってあげたいのは山々なんだけど…)

ずっしりと全体重を預けてくるのが辛い。結婚を機に買い直した大きくて頑丈なはずのソファが偏った荷重に悲鳴を上げていた。成長した凛は昔と違ってあちこちがゴツゴツしていて痛いし。普段どれだけ気を使って触れてくれているのかがよくわかった。十二分に身に沁みたのでそろそろ解放して欲しい。このまま寝入られたら私は圧死してしまうかもしれない。

「凛、お願い。苦しいから離して、ね?」

私の腰に抱きつきながらまん丸の目が不思議そうに見上げてきた。お酒が抜けないのか表情はまだとろんとしている。それからふいに、にっこりと笑った。普段の凛からは想像もできない天使の微笑みだ。ぐらりときた。駄目だ、とても邪険にできない。

「助けて冴ちゃん!」
『惚気けなら切るぞ』
「待って!本当に困っているの。頼れるのはお義兄様だけなんです。どうかご慈悲を」
『お前もいい加減にしろよ。相手を甘やかすばかりが夫婦じゃあねぇだろうが。旦那の手綱をまともに握れていなくてこれからどうするんだよ』

電話越しでも冴ちゃんの言葉の切れ味は抜群だ。でもここで怯んだら冴ちゃんは容赦なく私のことを見捨てるだろう。

「だってこんな凛、久しぶりなんだもの。も、もし冴ちゃんとケンカしなければ今みたいなかわいい凛のままだったかもね、なんて」
『…お前それで俺に勝ったつもりか?』

冴ちゃんの声が絶対零度に急降下した。まずい、やり過ぎたかも。『凛に代われ』と言われてひやひやしながらスピーカーに切り替える。「冴ちゃんが話をしたいって」とスマートフォンを差し出すと凛は子どものようにパッと表情を輝かせた。

『凛、嫁はお前の愛が重いらしい。離してやれ。それ以上しつこくすると嫌われるぞ』
「冴ちゃん!私そんなこと言ってな…」
『成人してから大分経つくせに適度な酒の飲み方も知らないのか。まだまだお前もぬりぃな』
「…誰が重くてぬりぃって?」

耳慣れた低い声が聞こえ全身を縛るような拘束がなくなった。代わりにお腹に手がまわり後ろから抱きかかえられる。長い前髪の下から垣間見える凛の目には強い光が宿り、そして完全に据わっていた。

さすがは冴ちゃんだ。短時間で凛を正気に戻してしまった。でももう少し穏便な言い方があったのでは。お礼と不服とどちらを先に伝えるか迷ううちに冴ちゃんは『用は済んだな』と、あっさりと電話を切る。繰り返される空虚な電子音をかき消すかのように凛の唸りが耳の後ろで響いた。

「お前に聞いているんだ。俺の何が重いんだよ」
「冴ちゃんにからかわれたんだよ。私は凛の気持ちが重いなんて思ったことは一度もないよ。今回のことで凛なりに優しく接してくれているのがわかってうれしかったし」

言いながら(私の方がよっぽど重いのでは)と思ったが口にできなかった。なにせ十年以上積もり積もった想いがこの胸にはあるのだ。

体にまわされた左手を解き、いつか凛がしてくれたみたいにお揃いの指輪にキスをする。すぐに大きな手のひらが開いて私の顎を掴み、ほどなく唇が合わさった。間近で覗いた瞳は勝気でひたむきだ。懐かしい無邪気さは消えてしまったが、今の凛こそが何よりも愛おしいと思えた。

「でも甘えん坊な凛もかわいかったから、もう一度見たいな。そうだ、確かお祝いにいただいたお酒がまだ残っていたはず」
「あ?俺はもう飲まねぇぞ。量もわかったし酔うのはこれっきりだ。二度と兄貴にぬりぃなんて言わせねぇ」
「えー…じゃあせめてさっきみたいに笑ってみせて。写真を撮って終わりにするから、ね?」
「フン」
「鼻で笑う方じゃなくて…もー、凛!」

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