浮いた腰にずしりと垂直に体重をかけられて抑え込まれる。「あ、」と堪えきれずに口から音が溢れた。抵抗も抗議も全て封じ込めてしまう程に強い一撃。震えて耐えていると電話が通じたらしく「錆兎か」と義勇さんは私の上で会話を始めた。せめて大きな声が出ないように解放された腕で顔を覆う。
ゆるやかな一定の律動は優しく中を擦ってじわじわと私を追い詰める。快楽に痺れながらももどかしく、強い刺激のある所を自ら探してしまう。こんな時に感じているなんて幻滅されるかもしれない。唇を噛むが、そもそもこの状況を選んだのは義勇さんの方である事に思い当たった。駄目だ、思考が散らばって頭がまともに働かない。
(とにかく、距離をとらないと)
僅かな理性を振り絞り、枕の向こうにある畳に爪を立て、這って抜け出す事を試みた。途端に、ぐうっとのしかかられ、全く身動きがとれなくなる。
「は、…っ」
息が詰まるほどに深く押し広げられ、大きく膨れた先端が触れられた事がないところにまで到達している気がする。何だか、すごく怖くて情けない。今にも泣き声を上げてしまいそうだ。
行き場のない感情に苛まれ目尻に浮かんだ涙を舌先で拭われた。頬を撫でられ軽く触れるだけの静かなキスをする。柔らかな体温に安堵し、腕を伸ばして憎らしい背中にすがりついた。
なんて自分勝手な人なのだろう。でも、私も似たようなものだ。逢瀬の中断を提案し聞き分けの良い振りをしておきながら、本音は一ミリだって離れたくないのだ。折角の週末に外泊の伴う仕事なんて断って欲しい。平日だって早く帰ってきて欲しかった。
重なった唇の隙間を縫い、硬い歯列の先にある濡れた温みに微かに絡んだ。すぐに枕に沈んだが、見上げた顔は珍しく驚いていて「してやったり」と少し笑ってしまう。
『聞いているのか、義勇』
「…聞いてい、る」
耳元で朗らかな錆兎くんの声が響く。その向こうで細やかな水音が続いている。
とんとん、とんとん。義勇さんは軽く叩くように早いリズムを刻む。気持ちいい。でも、突き抜けはしない。焦れて腰が動いてしまう。もう少し奥と上の方に欲しい。あと、強く。もっとずっと強くして欲しい。
迎え入れるように位置を調節してみるともう堪らなかった。どんどん自分の中が熱くなっていくのがわかる。
(我慢、できないかも)
『…遠征で疲れているところを悪かったな。また連絡する』
電話は義勇さんの返事を聞かずに唐突に切れた。電源ボタンを長押しし、乱暴に投げる。ふうう、と長い息継ぎさえ待ちきれず、強請るつもりでお腹に力を入れた。「く、ぅ」と小さな呻きと共に剛直が蹂躙を再開する。
夫の教え子の相談を押し退けて、家事も何もかも放り出して真っ昼間から抱き合う事を選ぶなんて奥さん失格だ。でも、喉から手が出そうなくらいその全てが欲しい。せめてこの家の中では『私だけの義勇さん』で。
「あッ…!」
ごつりと突き当たった最奥を更に開かれた気がした。先刻怖くて泣きそうになったところだ。今は脳天へと一気に駆け上がる電流に、恐怖も羞恥も洗い流される。義勇さんの向こうに見える天井がぐるぐると回り、酔ってしまいそうだと慌てて目を閉じた。
忙しない痙攣はどちらのものだろう。お互いの境界は同じ振り幅で揺さぶられ続けているせいか酷く曖昧だ。動き辛いだろうに、ぴったりと抱え込まれ二人で一つの生き物のように感覚を共有する。
余韻に浸っているとざらついた親指の先が気遣うように瞼をなぞった。「大丈夫です」と笑ってみせ、柔らかなキスを何度も交わす。そうしてまた言葉にする事を忘れていく─
『冨岡くーん、忘れ物ー』
突然インターホンが何度も鳴らされた。リビングに響く宇髄先生の割れた声にぎょっとして顔を見合わせる。
「…無視でいい。月曜日で十分」
『鞄まるごと後部座席に置いていくってどうなのよ。大好きな奥さんへのお土産もあるぞー』
どっと覆いかぶさられた。「動きたくない」と疲れた様子で起き上がろうとしない。居留守はばれているようで宇髄先生は『わざわざ届けに来るなんて俺ってば優しい』『往復したら腹が減った。そういえば昼時だ』とマイク越しにしきりにアピールしている。
結局そう幾らも経たないうちに私の知らないご当地キャラクターの描かれたクッキーを受け取る事になった。宇髄先生は用意した昼食に舌鼓を打ちながら「邪魔して悪いね」と屈託なく笑う。「全くだ」と義勇さんの不機嫌は日が沈むまで続いた。