甘く柔らかなのに、焼けるように激しい痛みがある。端的には言い表し難い複雑な感情を呼び起こす夢だった。具体的な内容は殆ど覚えていないが、所々で冨岡先生の顔が過った気がする。
泣いている事に気がついて顔を拭おうとしたが、自由がきかず腕が持ち上がらない。見るとシーツで全身をきつく包まれていた。拘束を解きその下から出てきたバスローブは、へたりはすれど乱れはない。
昨夜の事が順々に思い出される。この際どうにでもなれと、ずぶ濡れのままホテルに行く事を了承したのだ。
「捨て鉢になるな」
部屋に入りながら冨岡先生は制止したが、その瞳と声が抑えているものに共鳴し身震いした。既に告白を断った事だとか同僚だとか、理性で判断する類の物事はすっかり抜け落ち、頭の中が熱がある時のようにぐらぐらとして、そして─彼は結局私に指一本触れなかったのだ。
(シャワーを浴びてすぐに眠ってしまった筈だ…その後にどうとでも出来ただろうに)
シーツで簀巻きにした挙げ句ダブルベッドを明け渡し、自分は小さなソファで寝るなんて。誠実が過ぎる。それとも私に魅力がないのだろうか。はっとしていささかボリュームが物足りない体を見るが、そう考えられるくらいには気持ちを立て直していた。
見下ろした寝顔は瞑目してなお美しかった。ぴったりと閉じ合わされた睫毛が間接照明に照らされ、滑らかな頬に長い影を作っている。窓のないこの部屋では叶わないが、清い朝日の下ではきっと映えた。
(…何故こんなに素敵な人が私にこだわるのだろう)
誰に問うても明確な答えは返ってこない気がした。それでも繰り返さずにはいられなかった。多分、私は理由が欲しいのだ。自分の気持ちと志とを天秤にかけた時に釣り合う程のものなのか、確証を得る前に事が大きく動き出すのが怖かった。
まだ淡くはっきりとしない想いは心の中で小さな箱に閉じ込め蓋をして、二度と開かないように重しを乗せた筈だった。しばらく距離をおけばきっとこの感情も忘れることができる。その程度のものだと思っていたのに。肩に触れられた瞬間、箱は音を立てて壊れ爪先にまで電流が巡った。酩酊するかの如く顔が熱くなり目がくらんだ。閉じ込める前よりずっと強い。抑圧される事で膨らむ気持ちがあるなんて─…知らなかった。
胸に当てた手の下で、またとくとくと心臓が走り出す。同時に湧き上がる劣情に隠れたくなったが、大きな体を窮屈そうに丸めるのを前にすると、そうのんびりとしてられない。ゆり起こそうと手を伸ばした。