同期のぼんやり隊士

我妻善逸

善逸と諸々訳あり同期隊士の夢話。

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啓蟄の雷鳴 一

「お、おおお女ぁッ?」
「大きな声を出すな善逸。怖がっているだろう」

昨日までやっと耳の下に届くかくらいの長さだった筈の髪は大きく波打ち背中で揺れている。胸元はゆとりのある隊服の上からでもわかるくらい、ふっくらと膨らんでいた。

「…十七歳になったから、男の恰好をやめたんだ」

炭治郎の背中の向こうから小さく細い声がした。しかも年上かよ!弟分だと思って面倒を見ているつもりだったので、二重に衝撃を受ける。

「何で炭治郎は知ってるんだよ〜…」
「俺は鼻がきくからな。恰好は男でも、男とは全然違う。善逸は気づいていなかったのか。てっきり音でわかるものだと思っていたんだが」

全然わからなかった。こいつからは常にざあざあと、荒廃した野に吹く砂嵐のような不気味な音がするんだ。そんな音、男だ女だとか関係なく今までに聞いた事がなかった。

長い前髪の下に隠れた瞳はつぶらで大きく、硝子玉のように澄んでいて綺麗な事に気づいたのはいつだったか。鈍臭い所作が災いして心ない隊士に揶揄され蹴飛ばされても、きょとんとして一向に反撃しようとしない。加虐心を煽られた相手が歪んだ笑みを浮かべて、いよいよ拳を上げたところに炭治郎と止めに入ったのが、俺達と一緒にいるようになったきっかけだった。

そうして自分の周りの状況が目まぐるしく変わっても、あの不気味な音は動じる事なく常に一定に響く。善意も悪意も等しく判別できない危うい奴なのだと気づいた。

可哀想だと俺なりに気を使ってやった。食べ物を分け与えたり道を譲ったり…あと拾ってきた春画の一番綺麗な頁をあげたり、道端で小便をする時は蚯蚓を避けろと教えたり。

下品な振る舞いと言動の数々が脳裏を過る。いよいよ耐えられなくなり濁った金切り声が喉から飛び出した。鋭く尖った叫びは固い地面に吸い込まれ、辺りにいつまでも汚い余韻を残す。

「いっそ殺してください…」

そのまま平伏した俺に「気持ち悪いぞ、善逸」と炭治郎の冷めた声が降ってきて、ただでさえ萎んで細くなった心が真ん中あたりでぽっきりと折れる音がした。

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