不死川兄弟の幼馴染
不死川実弥&玄弥
不死川兄弟を追って隊士になった幼馴染の夢話。風柱に追いつきたくて玄弥と一緒に任務と修行に明け暮れる日々。タ○チのような「本命一体どっちなの!?」な三角関係を目指してます。
目次
本編
お題
2019.11.26
2019.11.26
不死川兄弟を追って隊士になった幼馴染の夢話。風柱に追いつきたくて玄弥と一緒に任務と修行に明け暮れる日々。タ○チのような「本命一体どっちなの!?」な三角関係を目指してます。
2019.11.26
2019.11.26
ぽたた、とどこからか雫が続けて落ちる音がした。
視界は相変わらず暗い、というか黒い。ここ数年の生活で夜にはすっかり慣れたと思ったのに。進もうとしている先が正しいのかもわからなかった。それでも行かなきゃ。脚が動かなくなれば、這ってでも。
耳が上手く聞こえない─違う。水が零れる音は変わらず断続的にだけれど聞こえてる。あとは、自分の息づかい。はあはあ、うるさくて。その向こうの音をかき消してしまう。
あれは追いついてきているのだろうか。どれくらい後ろに居るのだろう。わからない。多分そう遠くないうちに、何もわからなくなる。
***
「…帰ってたんだ」
「おー」
ダイニングテーブルに肘をついてテレビを観ていたのは実弥兄だった。「おばさんなら下の子たちを連れて買い物に行ったよ」と言うと「みたいだなァ」と画面から視線をそらさずに返される。勝手知ったる家だし二階にいる玄弥には断ったので、何も言わずに冷蔵庫を開けた。二人分の氷を入れながら思い立って、もう一つコップを用意する。
とぷとぷと三つになったコップに麦茶を注ぐ音と賑やかなのにどこか空虚な電子音が響いていた。そんなに面白い番組なのかな。あんまりテレビに夢中になるイメージはなかったけれども。見やった横顔は静かだった。
「………話がある」
私に差し出されたコップを机の上に置きながら、その口から出たのは麦茶へのお礼ではなかった。首の後ろを擦る動作は私の知っている実弥兄らしくない。
長いこと宙を見つめた後に向けられた目は頑なで、今此処にいるのは『不死川先生』なのだと直感的に悟った。言葉遣いは多少乱暴だけれど、質問をしに行けばつきっきりで教えてくれる生徒想いと評判の優しい数学教師。誰それ?な実弥兄の学園での姿。
「聞いてんのかよ」
「…聞いてない」
私の返答に、途端にこめかみをぴくぴくさせ拳を震わせた。あ、これは『実弥兄』だ。小さい頃、私と玄弥を虐めた子を追い払った後「いつまでも泣いてんじゃねェ!」と、その子よりも強い力で私たちを叩いた実弥兄。私たちの将来を誰よりも案じてくれた不器用な愛情表現なのだと、今なら何となくわかる。
その時と同じ表情をしているなあ、とぼんやりと眺めていると、はーと長い溜息をついた。「お袋じゃあ、お前らに甘くて役不足だからなァ」とブツブツ言う。腕を組み肘のあたりを叩く指先の速度が上がり、やがて止まった。
「玄弥との事だがなァ…避妊はきちんとしろよ。真剣に付き合ってんなら尚更だ」
「する訳ないじゃん」
何それ。珍しく言いづらそうにしているから待ってはみたが、その内容は私と玄弥の仲を囃し立ててくるクラスメイトと変わらない。実弥兄までそんな事を言うのか。不快で眉根に力が入った。
白くなって石のように固まってしまっているのを見て、とんでもない誤解をされているままなのに気がつく。片手を腰に当てて息を吐いた。
「玄弥とはそんなんじゃないもん。実弥兄のすけべ。セクハラ教師」
「テメェ…冨岡のところに突き出すぞコラァ」
「えーっ!ずるいよそれは」
内申点を気にしなくていい時期になったのでピアスを増やしたら一日目でばれた。以来、目をつけられている。炭治郎のとは違って透明な樹脂ピアスで目立たないし「外せ」って言われてもせっかく開けた穴を安定させる為のものだから、絶対に嫌だ。竹刀をぶん回してどこまでも追いかけてくるし、あれで「彼女ができた」なんて噂、とても信じられな、
「…ねえ、冨岡先生って彼女できたって本当?最近手作りのお弁当とかお菓子とか持ち歩いてるらしいし、直接聞いた子がいるって」
「知らねェよ。興味ねー」
仲悪いのか。弱味を握るチャンスだと思ったのに。「何だ、使えない」と呟くと「クソガキがァ…」と低い声が聞こえたが、それ以上は何も言わずにぷいとテレビに向き直ってしまった。
画面の上では芸人がどこかの田舎町で名産品に舌鼓を打っている。背景の青々とした田畑と大きな山はこの近所では見かけない景色だ。
(実弥兄は何故家を出たのだろう…玄弥が学園に通えているのだから、この家に住んだままでも支障はない筈なのに)
家を出ると聞いて遠い町の知らない学校に赴任するのかと思いきや、私と玄弥が通うキメツ学園だったので拍子抜けしたのを覚えている。軽口はいくらでも叩けるのに、肝心な事を言い出せないのは私の悪い癖だ。「お前には関係ねェ」と面と向かって拒否をされるのが怖くて、ずっと同じ場所で足踏みをしている。
二階から私を呼ぶ玄弥の間延びした声が聞こえた。気づけば手に持っていたコップは外側に雫が浮き、中の氷は溶けかけてすっかり小さくなっている。急いで台所に戻った。
氷を入れ直しながら玄弥を下に呼ぼうか尋ねたが「…別にいい」と返された。その小さな間に迷いが含まれているのを知っている。素直になればいいのに。長い付き合いだが、男同士の距離感は未だによくわからない。
「またね、実弥兄」
また学園でね、とはあえて言わなかった。うちのクラスの授業担当ではないので見かける事すら稀だったし、そもそも私の好きな『不死川実弥』は学園には居ない。我ながらこじらせてるなあ。ごめんね、と心の中で舌を出す。
「おー」と最初と同じ短い返事を背中で受け止めて、階段を駆け上がった。
Posted on 2020.04.18
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