不死川兄弟の幼馴染
不死川実弥&玄弥
不死川兄弟を追って隊士になった幼馴染の夢話。風柱に追いつきたくて玄弥と一緒に任務と修行に明け暮れる日々。タ○チのような「本命一体どっちなの!?」な三角関係を目指してます。
目次
本編
お題
2019.11.26
2019.11.26
不死川兄弟を追って隊士になった幼馴染の夢話。風柱に追いつきたくて玄弥と一緒に任務と修行に明け暮れる日々。タ○チのような「本命一体どっちなの!?」な三角関係を目指してます。
2019.11.26
2019.11.26
体の左側が熱くて苦しい。暗い、かび臭い、湿っぽい。でもそんな事に構っていられなかった。逃げなきゃ。早く、遠くへ。
もっと肺を膨らませて脚の隅々まで血を行き渡らせれば、とんでもなく大きな力を発揮できる筈なのに。息を吸おうとすると喉の奥を何かが塞いで、うがいをする時のような音がした。
むかつく。腹が立つ!何一つ思い通りにならない!いらいらとした。でもそれは私自身が弱いせいだとわかっていた。何もかも私の力が足りないせいなのだ。
大きくて白いものが焔のように揺れて追いかけてくるのが見えた。あれに捕まってはいけない。でないと─
***
「しんじゃやだよ、げんや…」
ふにゃふにゃと自分がそう呟いたのが聞こえた。ぼやけた視界にファンキーな後頭部が映る。玄弥はパッと振り返るとみるみるうちに目を釣り上げて「縁起でもないこと言うな!」と怒鳴った。ごめん、と眠たい目をこすりながら素直に謝る。
何でそんなこと言ったんだろ。夢を見た気がしたが内容は覚えてない。えい、とベッドから半身を乗り出しその背に抱きついた。クーラーのよくきいた部屋のせいか、温かいというよりいっそ熱く感じる。
首筋に頬を寄せるとトクトクと脈を打っているのがわかる。ぶ厚い胸に当てた手からは確かに心臓の鼓動が力強く打ち返していた。
(良かった…ちゃんと生きてる)
ほっとして顔を上げると、玄弥は状況に耐えられないのか耳まで真っ赤になってぶるぶると震えていた。変なの、今更じゃん。構わずに肩越しに手元に覗き込む。
辞書よりもぶ厚い問題集のページ数はまだ二桁だ。私がうたた寝をする前からやっていた筈なのに。また一ページ目からコツコツとやっているのか。
「苦手なところだけやればいいのに」
「俺はお前みたいに要領よくねぇの!」
私の腕を引き剥がしながらそう言う。飛ばしてしまうと不安になるのだそうだ。
十回やれば十分なところを百回やる性質なのは生まれた時から一緒にいるのでとっくに承知していた。体の大きさに似合わず繊細というか慎重というか。思わず頭をよしよしと撫でてしまう。
「ねー、遊ぼーよー。息抜きも大切でしょ」
「この間の模試B判定だったんだよ」
「この時期にBだったら十分だって」
「あっさりAとったやつに言われたくねぇ」
高校に入ってからの玄弥は実弥兄と同じ大学に行こうと必死だ。なので私のもっぱらのライバルは受験と、実弥兄。何でもできてちょっと怒りっぽいけど、男気溢れる玄弥のお兄ちゃん。憧れる気持ちもわかる。言ったことはないけど私の初恋は実弥兄だったし。
でも玄弥は玄弥だよ。良い所がいっぱいあるのに。いつだって実弥兄の背中を追っている。
「…つまんないの」
騒いでも体を揺らしても構ってくれなくなったので、諦めて玄弥のベッドの上に再度ひっくり返った。静かになると廊下を挟んだ隣の部屋からなのか、遠いところで玄弥の弟妹達の甲高い笑い声が聞こえる。
つまんないの、ともう一度呟いた。静かすぎて、つまらない。この春に実弥兄が就職を機に家を出てしまい、受験を理由に玄弥が譲り受けた一人部屋は当然のように外界から隔絶されていた。
それでも実弥兄が居た頃はもっと賑やかだった気がする。この家は体も声も大きい実弥兄を中心に回っていたのだ。私の毎日も含めて。
そんな事を考えていたらふと玄弥のシャープペンが止まったのに気づいた。いつまで経っても答えも解説も見ようとせず、私に解き方を尋ねる気配もない。
相変わらず人に頼るのが下手だなあ。不器用な幼馴染の背中をつつく。
「何回も言ってるけど、無理して実弥兄と同じ大学に行くことないじゃん。先生になりたい訳じゃないんでしょ?もっと射撃が強いところとか」
ちゃんと玄弥に合ったところを。そう続けようとして、黙って此方を睨んでくるので口を噤んだ。わかってるよ、「お前が言うな」でしょ。大人しく寝転んで三度目の天井を見上げた。
この話をすると玄弥と気まずくなるのはいつからだったか。今までどんなお節介を焼こうと受け入れるか流すかしてくれたのに、この件では返事すらしてくれない事が増えた。
もし玄弥と別の学校に行くことになって、全然顔を見る事がなくなったらどうしよう。先に大人になってしまった実弥兄と会う機会はもっと少ないだろうし─ぎゅうと胸が狭まって絞り出されるように涙が溢れた。
一人でぽつんと暗い所に置いていかれる絵しか浮かばない。そんな寂しい未来は、嫌だ。
声を堪えて顔を拭っていると大量のティッシュが押し付けられた。白いふわふわの向こうに赤い顔がある。
「な、なんで泣いてんだよ」
ぴったりと寄り添うことも完全に突き放すこともできずに、私達は波に漂うクラゲのように付かず離れずを繰り返している。この生ぬるい温度が心地良くて好きなのだけれど、実弥兄はとっくに陸に上がり玄弥もまたそれに倣おうとしていた。
私の真の望みは『置いていかないで』でも『連れて行って』でもなく『変わらずに此処にいて』なのだ。唐突にそれを悟って、噛み合うはずもないとまた涙が溢れてきた。
Posted on 2020.04.14
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