「女と子どもは特に近付けるな」
屋敷の主人に言い捨てて借りた離れに急ぐ。廊下に響く自分の足音はいつになく乱暴だが、ぶ厚い帳越しのように遠くに聞こえた。ずっと体が熱く頭がぼうっとしていたがついに耳にまできたか。突き当りにあった障子戸を勢いよく開け放った。
急な要請にも関わらず、あてがわれた部屋には布団が敷かれ、行灯が辺りを照らしていた。刀を置きながら畳の上に膝をつく。
初めてお目にかかったが催淫術とはこうまで強力なものなのか。鬼は斬り払ったもののかけられた術は消える気配がなく、深まる夜と共に強くなりさえした。おそらく夜明けまで残る類のものなのだろう。
触れてもいないのに股座が熱い。ただの性欲よりもずっと凶悪に思えた。
彼女が傍に居なくて良かったと心底思う。ひたすらに耐えるか発散させるしか手はないと胡蝶からの文にあったが、あの柔らかい肌に爪と歯を立てる絵しか浮かばず、とても家に帰る気にはなれなかった。
空想の中で汚してしまうくらいなら耐えきろうと唇を噛んでじっとしていると、ことりと背後で小さな音がした。障子越しに「義勇さん」と細い声で呼びかけられ、背筋がざわざわとする。
何故此処に。障子は押さえつける間もなくすらりと開いた。「大丈夫ですか?」と、いつもの笑みを浮かべながら、それでも如才なく俺から視線を外さず、後ろ手で戸を閉める。
「俺は今、普通の状態では」
「存じております」
強い覚悟を決めてきたかのように畏まった物言いをした。瞳の中の真っ直ぐな光に射抜かれる。これは、まずい。
意図するところに気づいて、力の抜けた脚を奮い立たせ距離をとる。短い間に鬼避けの香の向こうに独特の甘い香りを嗅ぎ分けていた。皮膚のすぐ下で蠢く黒い獣が彼女を獲物として睨めつけている。汗が顎を伝った。
そんな俺に臆することなく自分の着物の帯に手をかける。よせ、と言おうとしたが声が出ない。しゅるしゅると音を立てて解かれた帯が、その足元で蛇のようにとぐろを巻いた。最後の一端が手から滑り落ちる寸前に、恥じらうように目を伏せる。はらりと前が開き、白い肌が覗いた。
「すぐにお付き合いできますよう、香油を」
晒された脚は閉じられていたが、内腿は滴るほどに濡れ、乏しい明かりにぬらぬらと妖しく反射している。
思わずごくりと喉がなった。完全な据え膳ではないか。いや、今ならまだ引き返せる。すぐに部屋の外に追いやれば、きっとまだ間に合う。
「それに…お薬も処方していただきました。そろそろ効いて、くるかと」
目の奥の強い光が揺らぎ、濡れた唇で「、義勇さん」と荒い吐息の絡んだ甘い声を紡いだ。薄く開いた口の中に赤い舌が垣間見える。
抗えというのか、この色香に。
鬼の術をくらった自分の迂闊さと彼女の妙な度胸をなじりたくなったが、気がつけば布団に引き倒していた。無防備な裸体が眼前にさらけ出される。
「…いつもの俺と思うな」
返事は聞かずに唇を舌でこじ開けた。歯ががつがつと当たるのにも構わずに口内を貪る。手は好き勝手に肌を滑り肉を掴み、愛撫の体を成していなかった。動物と一緒だ。もはや繋がる事しか考えられない。
隊服の帯革を解き、膣口に切っ先をあてる。耐えるように固く瞼を閉じているのが一瞬気にかかったが、結局欲に身を任せて腰を沈めた。
「ん、うぅ…っ」
ふ、ふ、と苦しそうに息を吐きながら、すがりつくように手を伸ばしてきた。指先が俺の隊服を握る。
流石にまだ少し、固いか。僅かに押し返すような抵抗を感じるが、足の爪先に力を入れて踏ん張り、ぬめりに誘われるままにねじ込んだ。
「ひ、」と細く喉が鳴るのが聞こえた。びくびくと腹の奥が痙攣し入り込んだ俺をひとしきり締め上げると、やがてくたりと弛緩する。蕩けた表情が見返してきた。
もう達したのか。何を飲まされたのか知らないが、無理矢理引き上げられた高みは同じくらいとみた。しきりに膣壁がわなないて絡みついてくるので、絶頂に震えている最中なのはわかっていたが「もう少し待って欲しい」という嘆願には聞こえないふりをした。
細い腰を掴んで浮かせ、与える律動が逃げないように押さえつける。ぐいと体重を乗せて押し込んだ。
「んぁあっ!〜〜ッあ、!あっ」
悲鳴に近い嬌声が上がったが構う余裕がない。奥に、奥に、奥に。熱くて狭いそこをこじ開けるように強く突き動かす。我慢していた時間が長かったせいか、数度叩きつけただけで一気にせり上がってくるものがあった。
「う、」
くぐもった声が喉の奥から漏れ、引き抜く間もなく吐精する。中に熱が弾けるのがわかった。解放の余韻に浸り、吐き出したものを奥にこすりつけるように動くと、じゅぷじゅぷと繋がったところから深い水音が響く。
「は、あぅ…っは、は…」
伏せた睫毛を震わせているのを見て、受けとめた彼女の方も再び達したのに気づいた。結合部から溢れた愛液と精液が太腿を伝う。
着たままの隊服の中が湿り、肌にまとわりついて気持ちが悪い。脱ぎ捨てるために一度体を離すと「ひぅっ」と小さく声を漏らす。そうして物欲しそうに俺を見つめる視線とぶつかった。
そんな目で、俺を見るな。本気で止まれなくなる予感がした。
腰を掴んでひっくり返し、四つん這いにさせ引き寄せた。再度屹立した剛直をひくつく割れ目にあてがう。呑み込まれる様を眺めてぞくぞくと悦にひたる。
「っ…悪いが、一回で終わりにしてやれない」
挿入る前に告げるべきことだったが、言い終わる頃にはもう腰を動かしていた。肌と肌がぶつかる鋭い音がする。先程とは違う場所と擦れるのがわかり、薄い腹に手を回すと、突き当たる衝撃が手のひらに響いてくる気がした。背筋をしならせ敷布を握りしめてよがるのに覆いかぶさる。
衝動のままに首の後ろに噛みついた。柔らかな感触が歯ぐきを押しあげ、汗と彼女の匂いが混ざり合ったものが鼻腔をくすぐる。興奮が増し、頭が熱くなった。
「ふぁっ!あーっ…あっ!、あっ!あっ」
叫び声と共にしきりに締めつけられてどうにかなってしまいそうだ。堪らず動きを重くし、どっしりと確実に子宮口を突く。また体の奥底から込み上げてくるものを感じとっていた。細胞のひとつひとつが彼女に狙いを定めている。
「ぎゆ、さ、…!っは、おかしく、なっちゃ」
「なって、いいっ…俺だけを、見ていろ…っ」
剥き出しの本能が本音を吐き出させた。その体も心も、隙間なく俺でいっぱいになって満たされると思うと、火がついたように全身が熱をもつ。
二度目を注ぎ込まれてぐったりと沈み、されるがままの体を見下ろした。優しくしたいのに内側が乾き、水を求めるかのようにひりついた感覚が弱まった気配はない。
夜明けまではおそらくまだ遠い。
「お渡しした香油は殺精効果のあるものでしたが、念の為かき出しましょうか」
遠いような近いようなところで胡蝶の声が聞こえた気がして目を開けると、頭まで布団を被せられていた。ぶ厚いそれ越しでも、辺りが既に明るいのがわかる。除けようと体を動かすと上から強い力で押さえつけられた。
「胡蝶様が様子を見にきてくださったんですっ」
早口で言われて布団の中で状況を理解する。「後ほど男性を呼びますので、冨岡さんはそのまま大人しくしていてください」と冷ややかな声が続いた。
隙間からそっと覗くと、湿った空気を入れ替える為か庭側の戸が開け放たれ、逆光の中に白い背中が浮かび上がっていた。色濃い情交の余韻が香る肌を日の下に晒しているので、飛び起きそうになったが「人払いはしてあります」と眼光鋭く睨みつけられ動きを止めた。笑みを消した真剣な表情のまま、胡蝶は彼女の体をひと通り検める。
「傷にはなっていなさそうですね」
一応気を使う理性はありましたか、と聞こえたが、こちらを向いたうなじや肩にはくっきりと俺がつけた噛み跡が浮かんでいた。恥ずかしそうに指先でそれをなぞるのが見える。
「貴女がこんなにぼろぼろにならなくても冨岡さんは耐えきったでしょうに」
「…苦しんでいると聞いて居ても立ってもいられず…私にできることがあるならばと」
「だからと言って普通の女性が生身で理性の焼き切れた柱に付き添うだなんて」
「生身…?」
催淫効果のある薬を飲んだのではなかったのか。
胡蝶は眉をひそめて「私が用意した物は香油だけですよ」と首を傾げた。同時に二人の間に挟まれた顔を見やる。
「その、…」
赤くなって俯くが、それ以上言葉が続かないようだった。
許しを請いその体中に残る跡を慰めようとしたが、俺の手が触れるより早く部屋に鈍い音が響く。
「私が居るのを、忘れないでくださいね」
不穏な笑みを戻した胡蝶は、青筋をたてて畳に拳をめり込ませている。驚く彼女に素早く襦袢を着せ手を引いて立ち上がると、連れ立って部屋から出る寸前にぴたりと足を止めた。こちらを向き、目を細めたまま吐き捨てるように言う。
「催淫術より、よっぽど重症なのでは」
恋は盲目とはよく言ったものですね、と続き、言葉の意味を解する頃には部屋の中は一人になっていた。