竈門兄妹の幼馴染
竈門炭治郎
消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。
目次
2019.12.14
2019.12.17
2019.12.21
2019.12.24
2020.01.05
2020.01.18
2020.01.21
2020.01.25
消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。
2019.12.14
2019.12.17
2019.12.21
2019.12.24
2020.01.05
2020.01.18
2020.01.21
2020.01.25
「炭治郎」
火起こしをしている最中に、わざと声をかけた。何度呼んでも「うん?」と必ずこちらに顔を向けて笑いかけてくれる。
「なんでもない」
「はは!何だか今日は甘えん坊だな」
何度目かの時に手を休めて抱きしめてくれた。額を合わせてくすくすと笑い合う。顔を見るだけで、会えない間に積もり積もった不安が溶けた。
四六時中一緒に居る事は叶わないが、消息もわからないまま待ち続けた時を思えば逢瀬が短くても構わない。生きて私の腕の中に帰ってきてくれれば、それで良い。昔と変わらず柔らかく丸い頬をそっと撫でる。
すき、好きよ。大好き。暖かな時節に降る雨のように丸い粒になった私の言葉を貴方に注ぐ。そうしていれば、がらんどうになってしまったであろうその中を、いつか満たせると信じていた。
***
目を覚ますと雨戸の隙間から日が差し込んでいた。首を巡らせると部屋の中でも、いっとう暗い隅に炭治郎が座り込んでいるのが見える。傍にはいつも背負っている、あの大きな木の箱が置かれていた。
体を起こすと炭治郎は「起きたのか」と言いながら立ち上がった。その目見は気遣わしげで、えも言われず優しい。
昨日の恰好のまま前髪が乱れて垂れていた。一睡もしなかったの、と尋ねると「夜眠らないのには慣れているんだ」と眉尻を下げて微笑む。一筋が目にかかり、くしゃりとかき上げた。
痛む所はないかと私の体を、ひと通り検める炭治郎の方がずっと痛そうな顔をしている。作ったようなその笑みは唐突に消えた。少し怒ったような凛とした表情は逞しいが、今の私には恐ろしくもある。
炭治郎はもう、決めてしまったのだ。そう悟って、ざあっと血の気が引いた。
「やっぱり君とは」
「やめて。聞きたくない」
発した声は既に湿って震えていた。最後まで聞いてしまえば、きっと終わりが見えてしまう。枯れたと思っていた涙がまた溢れてきた。鈍痛のする頭の中に浮かぶのは炭治郎の明るい笑顔ばかりだ。ここで過ごした日々は私の中で確かに幸せの形をしていた。それを貴方の手で壊して欲しくなかった。
「終わりにしてくる。そして必ず、また君を迎えに行くよ。約束する」
これで縁は絶えるのだと思い込んでいたので、びっくりして顔を上げる。すぐ目の前に炎の色を映して私を見つめる瞳があった。
「沢山泣かせてごめん。碌に事情も説明しないまま、一人にしてごめん。俺はずっと君の優しさに甘えているんだ…どんな瀬戸際でも俺の事を放り出さずに、待っていてくれるから」
ひと息に言葉を繋ぐと後には、しんと沈黙が降りた。
脚の上で震える私の拳を、ざらついた感触が包み込む。炭治郎の手の平は記憶にあるよりもずっと固く、ぶ厚くて大きい。それでも雪解けの頃を思わせる温度を伴っていて冷えた私の手をじんわりと温めた。
瞬きをすると睫毛に引っかかっていた最後の雫が、ぽたりと炭治郎の手の甲に落ちる。深く息を吐くといくらか気持ちが落ち着いた。鼻をすすって座り直す。
「…終わったら全部話してくれる?」
「必ず話す」
「禰豆子にも、また会える?」
「会える!絶対に、また会える!」
力強く握り合わせたのは私の知り得ない幾つもの苦労を抱え込んだ手だ。それに守られているから私の手は柔らかく白いままでいられるのだ。
受け入れよう。炭治郎には炭治郎の強い意志がある。無理にひきとめ捻じ曲げることが、お互いの最善だとは思えなかった。
「待つのには慣れているの」
二人の間にあった蟠りは、この時やっと溶け去った。
***
突然戻った私を、意外にも家族は下にも置けない扱いをした。何も告げずに居なくなった上に連絡ひとつしなかったのだから、納屋にでも放り込まれて二度と外に出られないくらいの生活を描いていたので拍子抜けする。一体、鴉にどんな文を持たせたのだろう。今度会ったら聞き出さないと。
更に驚いたのは厳格な父が一切怒らなかった事だ。商売柄、体面を思えば私の存在は邪魔でしかないだろうに「店の事は考えなくていい。お前はこれからも好きに生きろ」と静かに言われた。突き放すような言葉の内容ほどに声に棘を感じず、店の奥では不在の間に義兄弟となった遠い親戚の少年がそろばんを弾いている。
居場所がない訳ではないが、居心地が良いとも言えなかった。心細くなると、かつての炭焼き小屋への道を歩く癖は止められない。
雪に足をとられないよう着物の裾を持ち上げてまっさらな塊を踏みしめた。もう大分粒が荒く、じゃりじゃりと音を立てて崩れる。朝方に降っても日が昇ると気温が高く感じる日も増えたので、この雪が残るのもあと数日だろう。また炭治郎の居ない季節が通り過ぎようとしている。白く凍った息が空に昇るのを見上げた。
寂しくないと言えば嘘になる。それでも胸の中には常にあの日に交わした約束があった。信じると決めたのだ。炭治郎が何をしても、必ず私のもとに帰ってきてくれると─
ふいに空を横切った声の大きい鳥が、私の名前で鳴いたように聞こえた。遅れて落ちてきた黒い羽毛に懐かしさを覚える。前を向くと白い登り坂の先の開けた場所に人影があった。私に手を振っているように見える。
胸がつかえたような感覚に慌てて無意識に止めていた呼吸を戻した。滲んだ視界でその影が一気に地面を蹴ったのがわかって、ほとんど同時に駆け出す。
溶けかけた雪で滑ったのでひどい勢いでその胸の中に飛び込んだ。受けとめてくれた腕は思い出のままに温かい。
「ただいま!」
「─おかえりなさい」
顔を上げると大好きな赫色が穏やかに私を見下ろしていた。
Posted on 2020.01.25
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