竈門兄妹の幼馴染
竈門炭治郎
消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。
目次
2019.12.14
2019.12.17
2019.12.21
2019.12.24
2020.01.05
2020.01.18
2020.01.21
2020.01.25
消えた竈門兄妹を偲んで過ごしていたら、突然再会した炭治郎に攫われる幼馴染な夢話。とある方との合同企画で「大正軸」のテーマで書かせていただきました。
2020年1月25日、web版としては完結しました。
2019.12.14
2019.12.17
2019.12.21
2019.12.24
2020.01.05
2020.01.18
2020.01.21
2020.01.25
呉服屋の娘らしくいつも綺麗な着物を着ていた。その格好のまま弟妹達と野山を駆け回ったり、炭焼きの仕事を手伝おうとするので、禰豆子が慌てて着なくなった古い着物を貸していた。色も柄も自分の物よりもずっと少ないそれを着て「炭治郎の家の子になったみたい」とはしゃいでいたのを覚えている。
家の人と上手くいっていないのは何となく察していたが、ある日「娘が世話になっている御礼に」と文が添えられて市松模様の羽織と麻の葉柄の着物が届けられた。
彼女が思う程、親父さんは薄情ではないのではないか。仲立ちする役目を担っていた奥さんが亡くなったばかりで、偶々すれ違ってしまっているだけなのではないか。俺がそう言うと母さんは「家族だからこそ難しいのかもしれないね」と複雑そうな顔をした。
「母さんから呉服屋さんへ直接御礼を言うから、この事はあの子には黙っていてね」
小指を絡めて結んだその約束は今も律儀に守り続けている。親子関係の修復の為にもいつか話した方がいいのはわかっていたが、それを相談する相手になる筈の母さんは、もういない。
その市松模様の羽織を、今彼女が目の前で繕っている。ほんの少し袖がほつれているのを目敏く見つけたのだ。
「改めて見るとすごく良い生地ね。仕立ても綺麗」
「そ、そうかな」
呉服屋の娘らしい鋭い着眼点に、ともすると顔に力が入りそうになる。頬の辺りがぴくぴくと痙攣した。別に後ろ暗い訳ではないのだから、と自分に言い聞かせるが中々難しい。
彼女が手を休めてじっとこちらを見つめているのに気がついた。まずいな、この距離では気づかれたか。思わず口元を隠すと諦めたように溜息をつく。鬼殺隊と禰豆子の事以外は隠し事をするつもりはないのに。ごめん、と心の中で手を合わせた。
***
「こんにちは!いつもお世話になっています」
大きな挨拶に振り返ると炭治郎が、にこにことして店の入り口に立っていた。客が帰った後の片付けをしながら茶屋の主人と歓談する横顔をちらりと見る。漏れ聞こえる内容は他愛のない世間話のようだが、時折「新婚夫婦」という単語が耳に入って、どきりと心臓が跳ねた。
婚姻はしていないのだから、真っ赤な嘘のはずなのに。炭治郎はその話の時だけは、あの妙に力の入った面白い顔をしない。つまりは、その。真実だと思っているということなのだろうか。心が一瞬浮き立つが、それはそれで現実から目を背けているようで危うい、と焦りを覚えた。
帰りがけに「旦那さんと仲良くね」と茶屋の主人に声をかけられて顔が強張ってしまったのがわかる。いよいよ私の方は限界かも。暫く歩いて店から離れ川沿いに出ると「街道沿いにチンドン屋が」と遠出をしていたらしく土産話をしようとするのを「炭治郎」と呼びかけて遮った。
「確認したい事があるの」
夕日を背に向かい合う。つい改まってしまうのは、婚姻という私にとっては重大な事柄についてだからだ。こちらとしては一世一代の覚悟があるつもりだが、式はおろか縁組の手続きもしていない。
それなのに炭治郎はあっさりと周囲に触れ回ってしまっている。茶屋の主人だけでなく、いつの間にか八百屋や肉屋にまでそう認識されているので、いちいち心臓に悪かった。
「一体どういうつもりなの」
一通り経緯を説明し終えると炭治郎は「ああ」と笑った。それから暫く黙り込む。やがて照れたように頬を掻いた。
「…そりゃあ今は嘘だけど…いずれは本当になると、俺は思っているから」
私の背中越しに差し込む夕日が、炭治郎の赫をより一層深く染めた。その顔はごく自然に笑っている。
「今すぐには難しいけど、式は盛大にやろう。お世話になった人を皆呼ぼう。俺も君に紹介したい人が沢山いるんだ」
涙で滲んだこの瞬間の彼の笑顔と色を、私は生涯忘れないだろうと思った。
Posted on 2020.01.18
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