端正な顔が近づいてくるのを察して、思わずふいと顔を逸らしてしまった。そのまま首筋に、かぷりと噛みつかれて「ひゃ」と間の抜けた声が出る。
「いい加減、慣れろ」
手を押さえつけられ顎を掴まれた。言葉と動作は強引なようで、その実とても柔らかく私に触れている。最初からずっと義勇さんは優しい。私の準備が整うのをちゃんと待ってくれる。
「こ、こうするのはどうでしょう」
両手で目を覆ってみせた。近づく気配を感じたが結局触れる事はせずに、はああと長い溜め息が聞こえる。指の間から覗いて様子を伺うと目の前で深く項垂れていた。
「義勇さんのお顔が綺麗すぎて緊張してしまうんです…」
「人のせいにするな」
拗ねたように横を向いてしまった。流石に少し苛立っているようだ。袖を握るが振り向いてくれず考え事をするように一点を見つめている。沈黙に耐えられなくなり体を伸ばしてその頬に口づけた。触れるだけの子どもの遊びのようなそれにさえ顔が火照るのがわかる。
「…今はこれが私の精一杯です」
すみません、と謝りながら身を引くと一瞬見開いた目を静かに伏せる。こちらにも、ともう片方の頬を指された。躊躇したが、やっと私の方を見てくれたので従うことにする。
頬に触れる直前で目を閉じると、ぐいと頭の後ろに手をやられ引き寄せられた。唇に少しかさついた感触がある。状況を理解する前に角度を変えて重ねられて体が固まった。身構えて目を、ぎゅうと瞑る。時々ぺろりと舐められて、どちらのものかわからないほど体温が馴染んだ頃に、帯が引かれてはらりと着物の肩が落ちた。露わになった背筋に沿って大きな手の平が、ゆっくりと滑る。「、あ」と、はしたない声が漏れて、ぞわぞわと肌が粟立った。
「は、義勇さ…ふ、ぅ!」
少し離れた隙をついて深く息をしようと口を開くと、ぬるりと柔らかく熱いものに塞がれた。私の舌を絡め取り強く吸われる。狭い口内を味わいつくすかのように動かれて苦しくて目が回りそうだ。頭の中がふわふわとして体に力が入らなくなっていく。
一向に止まる気配がなく、呼吸と名のつくものを扱う剣士であることに唐突に思い当たった。慌てて震える手で胸を叩く。
「…すまない、つい夢中に」
は、は、と浅い息を繰り返す体を支えられるが、その声に浮ついたような響きが含まれているのを聞き逃さなかった。喜べばいいのか怒ればいいのかわからず、複雑な気持ちで顔を見上げると、ちゅ、と目尻に口づけられる。唇に降りてくる気配を感じ、自然に瞼が下がった。触れるだけですぐに離れ、満足そうに耳の辺りを撫でられる。
長い口づけで体温が引き上がっているのか、既に熱く感じ体の奥が疼いた。私の体を這う手も指も舌も、いつもよりもずっと甘く心地よく響く。
「、義勇さん…」
手を伸ばすと柔らかく唇が降りてきた。もっと深く繋がりたくて腕を首に回す。ふ、と微かに笑われる気配があったが恥ずかしさよりも求める気持ちが勝った。ぴったりと重なり合った唇は、その日は最後まで殆ど離れなかった。
リクエスト:「最中に初めてのキス」