およそ自邸の居間にふさわしくない、その場に居るものを圧倒する覇気をまとって煉獄は声を張り上げた。
「女、俺の嫁にこい。共に明るい未来を築こうではないか」
炎を顕現したかのような勢いはとどまることを知らない。ぽかんとする俺達を余所に話を続ける。
「何を迷うことがある。聞けば妻でも恋仲でもないというではないか」
隣に座る彼女の肩がぴくりと動くのがわかる。どんな顔でこの話を聞いているのだろうか。怖くて確かめられず俺はひたすら煉獄の顔を見据えていた。
「物腰柔らかく見目も悪くない。家事の腕も申し分なさそうだ。特に先日、親方様の館で出された弁当は見事だった。あれに惚れたと言っても過言ではない」
ふいに彼女がこちらを窺うのがわかり、どきりとする。咄嗟に気づかないふりをした。こんな時まで自分が傷つくのが怖いのかと我ながら情けない。
「ああ、一人残される冨岡が心配か。しかし妻を他の男の元へ派遣するのはいくら俺とて」
「勝手にお話を進めないでくださいませ」
静かだがぴしゃりとした言い方だった。ぎょっとして思わず隣を見る。煉獄もむぅと唸って口を噤んだ。
「私の残りの人生は義勇さんに捧げるのだと心に決めております」
「冨岡に他に女ができたらどうする」
ありえない。口を挟みたかったが既に全くの蚊帳の外であることに気付いた。お互い気圧されることなく睨み合う様はさながら龍虎のようだ。案外似た者同士なのかもしれない。
「蹴散らしてみせます」
睨み合いの果てに彼女は、きっぱりと言い切った。「ますますいい女だ」と煉獄は豪快に笑った。
***
気が変わったら連絡をくれ、と煉獄は上機嫌で帰っていった。気丈な様子で見送っていたが姿が見えなくなると腰が抜けたように座り込む。
「ずるいです義勇さん…私にばかり喋らせて」
耳や首筋まで真っ赤に染まっている。顔を覗き込んだがぱっとそらされた。少女のような仕草からは先刻炎柱と渡り合った豪気は微塵も感じられなかった。
「その…恋仲と言えば良かったのか」
「………」
「婚約は結んでいない。妻では」
「もう!自分で考えてください!」
怒られた。顔を隠す手を取ろうとすると、いやいやと首を振る。途方に暮れてしばらく見守るが事態が動く気配はなかった。
「嫁に…くるか」
彼女が望むなら世間的にわかりやすい形を取るのもいいだろう。もうお互いの人生を背負う覚悟は決めたのだから気持ち次第でどうとでもなる。身一つの者同士であるから申し開きをする必要のある相手もいない。
考えた末の結論を口にしたが、はっと息を飲み逡巡するかのように視線が動く。「嫌か」と問うと焦ったように、ぶんぶんと強く首を横に振った。耳まで赤いのは変わらない。
「…気持ちが固まるまで何年でも待つ」
自分にどれくらいの時間が残されているのかわからないが、玄関先の立ち話で決めるようなことではない。
抱き寄せて囁くと背中に手がまわされ、ぎゅうとしがみついてきた。
リクエスト:他の柱と絡む