義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

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雪中の乾風

久方ぶりに積もった雪で足元が悪い。街道に出れば少しはましになるだろうとなるべく揺らさないように慎重に歩みを進めた。背負った小さな体は厚着越しでもわかるくらい熱をもっている。

「しっかりしろ」

声をかけたが返事はなかった。代わりに耳元で聞こえる浅い呼吸に、連れてきたことを一瞬後悔した。やはり医者の方を担いでいくべきだったか。すぐに自邸に一人残していけるはずもないと思い直す。二人分の体重で踏み固められた雪が足元でぎしぎしと鳴った。街まではまだ遠い。

***

目を開くと知らない天井だった。頬に当たる枕も布団の感触も馴染みのないものだ。ぱちぱちと火鉢が爆ぜ部屋の中は暖かった。

(私…熱で目を回して…それから)

座り込んでから寝転がった方が楽だ、と固い床にそのまま体を横たえたのを思い出す。少し寝て良くなれば布団に行こうと考えたのを最後に記憶がない。その時に比べれば格段に頭がはっきりしているが、自分で触れた頬も指先もまだ熱をもっている気がする。寝返りをうつと、じっとりと汗をかいた肌と寝間着が擦れた。熱を出すなんて何年振りだろう。

「気がついたか」

足元から聞こえた声に目を見張る。義勇さんは起こしかけた私の肩を押して優しく寝かせ、布団をかけ直してくれた。そのまま枕元に正座する。

「帰ったら居間に倒れていたので胡蝶の屋敷に運んだ」

これ以上ないほど端的な説明につい「怒ってらっしゃいますか」と尋ねてしまった。「いや」と首を振られるが表情は変わらない。そのまま、しんと沈黙が降りた。

「あの、今回の任務でお怪我はありませんか?義勇さんはお休みはとられたのでしょうか」
「こんな時まで俺の心配か」

今度ははっきりと眉間に皺が寄った。義勇さんは私の方に身を乗り出し、お互いの鼻が触れそうな距離にまで近づく。

「移ってしまいます」
「いい」

いっそ移せ、と言いながら、なおも近づく顔に反射的に目を閉じた。

ひんやりとした唇が押しつけられる感触に思わず体が強張る。義勇さんの唇は触れるだけでなく味わうようにやわやわと私の唇を食み、ゆっくりと熱を奪っていった。大きな手が体温を確かめるように襟元に差し入れられ、鎖骨を撫でられる。ぞくりと背筋が震えた。

「お熱いですね」

ふふふと笑いを含んだ声に目を開けた。見ると胡蝶様がにこにこと立っている。慌てて義勇さんの体を押し返した。

「冨岡さん気づいていたでしょう」
「まさか部屋に入ってくるとは思わなかった」
「貴方ねえ」

接吻を交わすのを見られたかと思うと気絶しそうなほど恥ずかしかったが、そんな私に構わず険悪な空気が二人の間に流れる。ぎょっとして見守っていると胡蝶様が先に視線を私に向け、冷やすために出していた額に触れた。「まだ熱がありますね」と綺麗な形の眉をひそめる。そして、くるりと義勇さんに向き直った。

「診察と着替えをしますので席を外してください」

きっぱりと言い放ち彼を部屋から追い出す。

「重ね重ねご迷惑をおかけし申し訳ありません」
「一人二人増えたところで変わりませんよ」

体を拭くのを手伝ってもらい、着替えを済ませ布団に横たわると、全身からじっとりと湿った感覚がなくなった。生まれ変わったかのように爽快だ。

「ここなら任務中でも寄りやすいと踏んだのでしょうね。貴女を一人きりにすることもありませんし」

瞼の裏や口の中を検められながら「愛されてますね」と、またふふふと笑われる。

「どうでしょう…何だかずっと怒っていらっしゃるようですし」
「あら、そうなんですか。狭量は嫌われますよ」

最後の部分は外に待機している義勇さんに向けられたものだった。障子の向こうの影はぴくりともしない。

「私にはほっとしているように見えますけどね。貴女を抱えてやって来た時にはそれはそれは取り乱して」
「胡蝶」

低く鋭い声が飛んできた。胡蝶様は「おお怖い」と大して動じた様子もなく立ち上がった。

「風邪のようですが油断せず安静に。あまり熱の上がるようなことは控えてくださいね」

さり気なく言われたが先刻の状況を思うと顔から火が出そうだ。額に置かれた布の冷たさが際立った気がする。

胡蝶様に代わって、再び枕元に正座をした義勇さんを指の間から見上げた。乱れた髪を甲斐甲斐しく整えられ、その仕草に胸がいっぱいになる。

「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」

努めて微笑むと髪を撫でていた手が滑り柔らかく頬に触れられた。その手を自分の手で包むと伝わってくる体温に安心し、とろりと瞼が落ちてくる。

「義勇さんがいらっしゃって良かったです…」

微睡みの向こうで義勇さんが何か言ったのが聞こえたけれども、目を開けることも聞き直すことも叶わず眠りに落ちた。

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