義勇さんちの住み込みさん

冨岡義勇

過去も現在も未来も気にせずに、ばらばらと書きますので読み手様が混乱しないように…!アップ順ではなく時系列でまとめています。
2020年9月11日、web版としては完結しました。

【R18】コンテンツについてはこちらをお読みください。

目次

序章

両片想い期

両想い期

終章

※暗めです

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白昼の口づけ

今日は一日非番をもらった。

そう言うとぱっと零れた笑顔に、何をねだられるのかと内心うきうきしたが、頼まれたのは買い出しの荷物持ちだった。

「お味噌とお醤油…できればお米もお願いしたいのですが」

色気のない内容だが嬉しそうだからいいか、と並んで街へ向かう。陽光の下で今日は天気がいいだとか夕飯は何にしようだとか他愛のない話を聞きながら歩いていると、忙しなく血生臭い日常が嘘のようだ。

「いつもお味噌とお醤油を頼んでいるお店はこちらです」

立派で趣き深い店構えに反して店番をしているのは若い男だった。顔見知りなのか彼女は軽く雑談をした後てきぱきと欲しい品を注文する。用意をしながら男がこちらをちらちらと窺ってくるのが気になった。

試しに彼女の耳元に顔を寄せ「塩はいらないのか」と聞く。ついでに肩に軽く触れた。男は顔色を変え手にしていた物を取り落とす。そういうことか。

「家に届けさせるのは止めて欲しい。必要な時には俺が行く」

店を出てからそう言うと彼女は即座に「すみません」と謝った。

「あの、やはり不在の時に男性が訪れるのは外聞が悪いですよね」

気が回らなくて申し訳ありません、と頭を下げられる。外聞の良し悪しではなく彼女の身が心配なのだが。微妙にずれた見解にどう言ったものかと思考を巡らせる。

ふと先程の店から男がこちらを覗いているのに気づいた。頭を下げ続ける彼女と立ちつくす俺を不審そうに見ている。

彼女に声をかけたが「すみませんでした」と言うばかりでその場から動かない。手を引くか抱き寄せたかったが生憎味噌と醤油で両手が塞がっていた。それならばと名前を呼ぶと、やっと顔を上げたので一歩近づく。柔らかい唇に口づけた。

「ん、」

驚いて目を一度見開いたが、戸惑いからか今度はぎゅうと固く閉じるのが可愛らしい。少し圧力を強めたが突き放されはしなかった。満足して離れると男の姿はもう見えなかった。

彼女は狼狽したように真っ赤になった頬を両手で包み込む。互いの肌を知らぬ仲ではないのに存外に初心な反応に虚をつかれる。

「嫌だったか」
「いえ、そんな、全く!」

ぶんぶんと首を振り、更に顔を赤くさせ恥ずかしそうに目をそらす。同衾するよりもよっぽど照れて嬉しそうなのを見て彼女との価値観の基点のずれを理解した。

(…もっと早くにこうすればよかったのか)

胸の中で、すとんとあるべき場所に何かが収まった感覚がした。

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