蝶屋敷のまかないさん

嘴平伊之助

蝶屋敷に滞在する隊士の食事を作りながら伊之助と恋に落ちる夢話。屋敷の女の子たちとにこにこふわふわ、伊之助と甘酸っぱいお話が中心です。

目次

本編

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白昼の口づけ

「お待たせしました」

買い出しのための荷物持ちを頼まれた。もう何度も行っているから勝手は知っている。普段は被った布に隠れているつやつやの黒髪。束ねた髪の先にとめられたしのぶ達と同じ蝶の飾り。色のついた着物を見るのもこの時だけだ。

胸の中がむずむずして、何でもできる気がして歩きながら宙返りをした。「すごい!」と手を叩かれて、もっと笑顔を見たくなる。米も味噌も醤油もいくらでも持てた。

「寄り道していきましょう」

川沿いに腰を下ろして甘い餅を並んで食べる。あっという間に自分の分を平らげると「私の分もどうぞ」と2つあったうちの1つを差し出された。餅も日差しも笑った顔も着物の色も、全部が温かくて柔らかい。ずっと浸っていくなるこの心地良さの正体は何だろう。知りたいことがまた1つ増えた。

***

「伊之助はまかないさんが可愛くてしかたないんだな」
「かわいい?かわいいって何だ?」
「可愛いは…そうだな。小さくてふわふわしてて、か弱いものを見ると守りたくなるだろう。兎の仔とか」

全然わからん。兎は兎だ。弱っちくて震えているだけ。仔兎なんて自分の飯も寝床も調達できない。山で見かけてガリガリで不味そうだとは思っても、守りたいと思ったことはなかった。

そう言うと炭治郎は「説明が難しいな」と言って考え込んだ。やがて、ぽんと手を打つ。

「俺は禰豆子が可愛い」

何言ってんだこいつ…。俺がしらけるにも構わず炭治郎は続けた。

「禰豆子が喜ぶと俺も嬉しいし、小さい体で頑張っているのを見ると応援したなる。優しくしてやりたいし、できるだけ泣いたり痛い思いはして欲しくない」

それなら何となく理解できる。俺が頷くと炭治郎はにこにこと笑いながら言った。

「今度そう思う時がきたら言ってあげるといい。女性にとって『可愛い』は褒め言葉だから」

***

山で摘んできた花に喜ぶ顔が『かわいい』。

猪の皮を脱いで距離をつめると戸惑ったように視線を迷わせた。伏せた瞼が震えている。優しくしてやりたいのに時々その顔を見たくなる。

肩を掴もうとしたがしのぶから接触禁止と言われたのがよぎった。「お預かりしている大切なお嬢さんなんですよ」とも。ため息を吐いてその肩に額をのせた。手に持った花の独特な青臭さと薬臭さが鼻をつく。少し解けた髪が風にあおられて俺の頬をくすぐった。

「伊之助さん」

小さく名前を呼ばれて「何だよ」と顔を上げる。つい言い方が乱暴になったのを一瞬後悔した。

体を離して顔を覗き込むと、ふわりと目を閉じたのが見えた。唇に温かくて柔らかい感触。すぐに離れたが俺の影で暗くなった顔が目に焼きついていた。

「私から触れるのは駄目と言われてませんから」

しのぶの裏をかくのか。やっぱりこいつは兎じゃねえ。くすくすと笑うのを見ながら、何で俺が赤面させられるんだと手の甲で唇を拭った。

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